アスペルガー向けのソーシャルスキルトレーニングメソッド6選

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公開日:  カテゴリー: SST

アスペルガーは言語・知能面の遅れがないため、見逃されやすい発達障害です。しかし成長とともに対人関係の不器用さが顕著になり、困る場面が増えてきます。

もしかすると、お子さんや社員の困りごとは、その人が持つアスペルガーの特性に起因しているかもしれません。

アスペルガーの困りごとは、ソーシャルスキルトレーニングで解決しましょう。ただし、トレーニング効果を高めるためには、アスペルガーの特性を踏まえての実践が欠かせません。

本記事ではアスペルガーに対するソーシャルスキルトレーニングのやり方を解説します。あわせてアスペルガーの特徴もまとめました。

最後まで読み、お子さんや社員の困難を解決するトレーニング手法を見つけてください。

1.アスペルガー症候群とは

アスペルガー症候群とは

アスペルガー症候群は、以下の特徴をあわせもつ脳機能障害の1つです。

  • ・表情や仕草から相手の気持ちを察するのが苦手
  • ・比喩や遠まわしな表現が苦手
  • ・自分なりのこだわりが強い
  • ・においや音、皮膚などの感覚が過敏
  • ・知能・言語面の遅れはない

「相手の気持ちを考えない言動をする」「自分の話ばかりし続ける」「ルーティンの乱れに抵抗する」などの困りごとも、対人関係を苦手とするアスペルガーならではの特徴です。

中には新しい環境になかなか馴染めずに、「学校に行きたくない」「仕事が続かない」と生活上の困りごとを訴える人もいます。

  • 【POINT】
  • 実は「アスペルガー症候群」は古い診断名で、現代では使われていません。2013年にアメリカ精神医学会が発表した診断基準(DSM-5)にもとづき、「自閉スペクトラム症(ASD)」としてまとめられています。

(参考:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|厚生労働省 e-ヘルスネット)

本記事では自閉スペクトラム症のうち、アスペルガーの特徴が顕著な人に向けたソーシャルスキルトレーニングを解説します。

2.アスペルガーが困難を感じやすい場面

アスペルガーが困難を感じやすい場面

アスペルガーは、特性ゆえに社会生活や人間関係の場でさまざまな困難に直面します。

以下はアスペルガーが困難を感じやすい場面の一例です。

  • ・自分のペースが大切 集団行動で周りに合わせられない
  • ・日常会話・雑談が苦手→人と会話が続かず人間関係が深まらない
  • ・他人の気持ちを察しない 不用意に相手を傷つける言葉を発してしまう
  • ・場の空気を読むのが苦手 場にふさわしくない振る舞いをしてしまう
  • ・社会的規範やルールに無頓着 悪意なくルール・マナー違反をしてしまう

アスペルガーの困難は、学校や会社など集団行動の場で際立ちます。アスペルガーは対人関係や社会性、集団への適応を苦手とするためです。

周りと同じ行動ができないために集団からはみ出しやすく、変わり者扱いされるケースも見られます。

無意識に他人を怒らせる言動をとるのも特徴の一つです。自分が知らないうちに、人と距離感ができたり、グループで孤立したりして、悩んでいる人もいるでしょう。

また言語や知能面の遅れや学習障害(LD)がなくても、「先生の話や規律に従って授業(クラス)に参加する」「研修で指示通りに動く」などが難しいアスペルガーは、周囲に比べて学びに遅れが出やすくなります。

3.アスペルガーに必要なソーシャルスキルトレーニング(SST)とは

アスペルガーに必要なソーシャルスキルトレーニングとは

アスペルガーが苦手・困難を感じやすいのは、大きく以下の3つにまとめられます。

  • ・対人関係
  • ・自分の気持ち・行動のコントロール
  • ・社会的ルールの理解と遵守

曖昧で抽象的な表現や、相手の反応や状況を「察する」ことが苦手なアスペルガーにソーシャルスキルトレーニングを行う際は、できるだけ具体的な指示を与えるよう配慮しましょう。

またトレーニングを受ける人が、「どの項目に」「どのような」困難を感じているのかを見極め、適切かつ具体的なメニューを考案するようにも心がけます。

この章では、ソーシャルスキルトレーニングで支援できる内容を、課題別に解説します。

関連記事:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?必要性や各シーンを想定した方法を解説

3-1.対人関係のトレーニング

対人関係の課題を解決するソーシャルスキルトレーニングでは、アスペルガーに対し「相手にも気持ちがある」「相手の気持ちを考えた行動が重要」だと知ってもらうことが目的となります。

大人になるにつれ、場の空気を読んだ行動の重要性や相手の発言の裏を読む力が重視されるようになります。しかしアスペルガーは「察する」「推測」が苦手なため、職場や地域社会で孤立しがちです。

対人関係に軸を置いたソーシャルスキルトレーニングに早期から取り組み、適切な行動ができるよう導いてあげてください。

関連記事:社会に出るための技能訓練!障害を持つ大人向けのソーシャルスキルトレーニング

3-2.自分の気持ち・行動をコントロールするトレーニング

「マイルール」ともいえるこだわりの強さ、気持ちの切り替えの困難さ、あるいは新規場面への強い抵抗感なども、アスペルガーの特徴です。

集団で規律に従った行動が苦手なため、学校や会社に適応できず、不登校や失職の原因になる場合もあります。

アスペルガーは「自らの気分」によって行動を決めるため、外部からの無理な働きかけを拒絶する傾向にあります。

無理に行動させようとすると、その反動から衝動的にその場から飛び出してしまい、思わぬ危険に直面するおそれもあります。

アスペルガーの「自らの気分が行動を決める」特性を理解したうえで、自分自身の気持ちや行動をコントロールする方法を学ぶトレーニングも大切です。

3-3.社会的なルールを理解するトレーニング

自分なりの行動の仕方を優位に考えるアスペルガーは、「並ぶ」「待つ」などの社会的ルールが苦手です。また「相手が嫌なことはしない」「先を読んで行動する」などの暗黙のルールの理解にも苦労します。

しかし学校や会社には多くの暗黙知が存在します。結果的にうまく適応できず、周囲とトラブルになるケースもあります。

落ち着いて学べる環境で、ソーシャルスキルトレーニングによってルールを伝え、理解と般化を促しましょう。

4.アスペルガーに向けたソーシャルスキルトレーニング(SST)6つの例

アスペルガーに向けたソーシャルスキルトレーニング6つの例

アスペルガーに向けたソーシャルスキルトレーニングの具体的な手法を、6つ紹介します。

  1. 1.ロールプレイ
  2. 2.DVD・映像教材の視聴
  3. 3.感情カード・絵カードの活用
  4. 4.ルールブックの作成
  5. 5.できた記録の作成
  6. 6.自分の気持ちを言葉にする、会話をする

いずれも、学童期から大人まで活用できる手法です。

対象者の課題・困難の度合いに合わせてサポートの程度を工夫してみてください。一人ひとりに最適なソーシャルスキルトレーニングが可能になります。

4-1.ロールプレイ

対象者が実際に困難を感じている場面を想定し、参加者がさまざまなパターンを演じることで具体的かつ適切な振る舞いを学べるトレーニング手法が「ロールプレイ」です。

どのような場面でも設定できるため、対象者が今まさに悩んでいる課題も扱えます。

子どもたちなら「学校でやりたくない役割を与えられた」、社会人なら「取引先がクレームの電話をかけてきた」など、参加者の現実を支援できる内容を考えてみましょう。

複数の参加者が交代しながら演じるようにすると、他の人の振る舞いからも学習できます。良い行動はその場で褒め、自己肯定感を高めつつ般化につなげましょう。

関連記事:SSTでのロールプレイ実践方法|場面設定やシナリオ例、注意点も解説

4-2.DVD・映像教材の視聴

DVD・映像教材の視聴

DVDなどを使った映像教材は、場面を疑似体験しながら問題に気付かされます。文字が読めない低年齢へのソーシャルスキルトレーニングにも最適です。

自分が演じるロールプレイと異なり、映像教材は場面や他人の振る舞いを客観視できる点が特徴です。

「こうしたら良いのに」「どうしてそんな行動をしたのだろう」と考える余裕ももちやすく、発展的な気付きも得られます。

ソーシャルスキルトレーニング向けの映像教材は、他人への関心が薄いアスペルガーでも理解できるようにつくられています。

注意散漫なタイプには没入感がより高いVR教材の導入もおすすめです。(VR教材に関しては後ほど詳しく解説します。)

4-3.感情カード・絵カードの活用

アスペルガーはこだわりが強く、マイルールをかたくなに守ろうとします。また感覚が過敏な人が多く、ちょっとした変化や刺激にも敏感に反応します。

一般の人のように、「自分の中で折り合いをつけ、うまくやっていく」良い意味での適当さが苦手なため、日常生活の中でストレスやイライラを感じるシーンも多くなります。

感情カードや絵カードの使い方を練習しておくと、自分の感情を相手に適切に伝えやすくなります。円滑な人間関係の構築に役立つでしょう。

ソーシャルスキルトレーニングでは多くのカードを並べ、「感情を俯瞰する」「場面ごとの気持ちを想像する」などの使い方もおすすめです。

4-4.ルールブックの作成

ルールブックの作成

ルールブックは、場面別の対応例をまとめたノートです。対象者が困難を感じやすい場面や社会的ルールに対する対応例をまとめておき、本人や周囲の支援者がいつでも見返し活用します。

ルールブックは既存教材ではないため、一人ひとりの特性に合わせて作れる柔軟性がメリットです。

1冊作成しておくと、家庭、学校・職場、病院など、対象者の支援にかかわる人すべてで共有でき、関わり方の一貫性も維持しやすくなります。

ルールブックをつくる際は、対象者にとってのわかりやすさを重視してください。「簡潔に、具体的に書く」「イラストやビジュアルを活用する」「やってはいけない行動より、やるべき行動を書く」などの工夫が大切です。

4-5.できた記録の作成

アスペルガーの人は、言葉や状況を定型的に受け止めます。

失敗は失敗、言われたことは言われたこととしてそのまま受け止めるため、思考を発展させないとできない「経験や失敗から学ぶ」「自然とできるようになる」のは苦手です。

臨機応変な対応が苦手なのは生まれつきの特性であるため、「困ればできるようになるでしょう」と放っておいてもできるようになりません。

そこで、学んだ内容やできたことを記録していく「できた記録」をつくってみましょう。フィードバックも合わせてまとめると、ふさわしい振る舞いがまとまった「ルールブック」にもなります。

「できた!」というポジティブな記録は、本人にとっての自信になります。支援者にとっては、成長を発見し褒められるまたとない機会となるでしょう。

4-6.自分の気持ちを言葉にする、会話をする

自分の気持ちを言葉にする、会話をするより実戦的なソーシャルスキルトレーニングとして、雑談や他愛もない会話も取り入れてみましょう。

会話には「話の流れを汲む」「相手の話に耳を傾ける」「共感する」「一方的に話しつづけない」など、多くのコミュニケーションスキルが必要です。

他人の気持ちを察し、空気を読んだ行動が苦手なアスペルガーの実戦練習としても、最適な題材です。

また会話は、ロールプレイのように台本がありません。会話の内容や振る舞いも自分で考える必要があるため、つまずいた箇所から課題も見つけられます。

発見された課題を次回のトレーニングで支援し、課題発見と対策のサイクルを回していきましょう。もっとソーシャルスキルトレーニングのことを学びたい方は、こちらの記事もあわせてご覧になってください。

5.アスペルガーのソーシャルスキルトレーニングにはVRがおすすめ

.VRをソーシャルスキルトレーニングに活用

アスペルガーには、特性ゆえにソーシャルスキルトレーニングの難しさが付きまといます。

そもそも対人にストレスを感じるタイプが多いため、人と接しなければならない従来のトレーニング手法を好まない可能性も高いためです。

そこでおすすめなのが、VR(Virtual Reality・仮想現実)を活用したソーシャルスキルトレーニングです。

アスペルガーに対するソーシャルスキルトレーニングにVRが有効な理由を解説します。

5-1.アスペルガーにソーシャルスキルトレーニングをおこなう難しさ

ソーシャルスキルトレーニングは、対象者の社会的困難の解決に有効な手段です。

しかし、とりわけアスペルガーに対してはソーシャルスキルトレーニングの実施そのものが難しい場合が見られます。

アスペルガーの「他人への興味が希薄」「自分のこだわりで行動したい」特性は、放課後デイサービスや社内研修などソーシャルスキルトレーニングを実践する場でも見られる傾向であるためです。

ソーシャルスキルトレーニングを進めようとしても、「そもそも人と接したくない」「気分が乗らない」など、トレーニングの実施が難しくなってしまうケースはよくあります。

5-2.アスペルガーは本当に「人に興味がない」のか?

アスペルガーは、「他人に関心が薄い」「人の気持ちに無頓着」といわれます。しかし実際は「アスペルガーも自分のペースで発達している」と都立小児総合医療センター副院長の田中哲氏はいいます。

“他人に関心を持たないとか、他人の気持ちが読めないとか言われてきたわけですが、実はそうではなくて、他人に関心をいだくようになるタイミングが他の子供とは違っていたり、表現の仕方が違っていたり、皆と気持ちを合わせる必要を感じていなかったりするのです。”

(引用:「発達障害を理解しよう」|健康教育指導者講習会)

アスペルガーは、「自分のペースで、自分の気が済むようにできること」を重視します。自分の内面に視線が向いているため、周囲の定型発達の人たちとはペースが合わないように感じられるだけだといいます。

アスペルガーに対するソーシャルスキルトレーニングは、支援する側のペースに合わせようとするのではなく、彼らの気が済むようなアプローチを提供するよう意識してみましょう。

5-3.VRならアスペルガーの気分に合わせた柔軟なトレーニングが可能

VR技術を活用したSSTなら「Realize VR」

いま、VRを活用したソーシャルスキルトレーニングが注目されています。VRによるソーシャルスキルトレーニングは、とりわけアスペルガーへの効果が期待できます。

具体的な学習方法としては、専用のVRゴーグルを着用し収録された映像教材を視聴し学びます。

ゴーグルを着用すれば始められるため、気分にムラがあるアスペルガーでも「今日はできそう!」となったとき即座に実施できます。

また人と相対してのトレーニングではないためコミュニケーションに抵抗がある人でも気軽に実施可能です。

ロープレのように適切な振る舞いを考え実践する必要もない点も、アスペルガーにVRがおすすめできる理由です。

5-4.アスペルガーのソーシャルスキルトレーニングにはRealize VRを

VRによるソーシャルスキルトレーニングなら、Realize VRをご検討ください。

Realize VRには、学童期から大人までを対象としたさまざまなソーシャルスキルトレーニングの場面を300以上収録しています。困難を感じやすい場面やよくあるシーンを選び、さまざまなパターンを繰り返しトレーニングし効果を高められます。

Realize VRには、ほかにも次の特徴があります。

  • ・150種類以上の豊富なシナリオ
  • ・トレーニングの成長を記録するシステム
  • ・伸ばせるスキル(MSPA評価)を可視化

VRゴーグルは没入感が高いため、散漫さや不注意をあわせもつアスペルガーでも集中してトレーニング可能です。

Realize VRに関して詳しく知りたい方、また実際に試してみたい方は、下のボタンからお問い合わせください。

6.まとめ

アスペルガー症候群は、対人関係やコミュニケーション、強いこだわりなどに特性があらわれる発達障害の1つです。集団からはみだしやすく、社会生活に困難を感じるケースが少なくありません。

しかし、言語・知能の遅れはもたないため、特性を踏まえた適切なソーシャルスキルトレーニングを行えば、十分に自立し社会生活を送れるようになります。

対人にストレスを感じやすく、自分のペースにこだわる傾向が強いアスペルガーのソーシャルスキルトレーニングには、VRの導入がおすすめです。子どもから大人まで使える、300以上の場面を収録したRealize VRをぜひお試しください。