ソーシャルスキルとは?種類や身につけるトレーニング方法を簡単に解説
公開日: カテゴリー: SST
ソーシャルスキルは、これまで学校や特別支援、就労支援などの現場で使われてきた概念です。
近年では、人の多様性や個性を尊重する社会的な流れや、多くの人が人間関係にストレスを感じている現実を受け、ビジネスや大人のコミュニケーションの場でも注目されるようになりました。
ソーシャルスキルは社会生活を円滑に送るために必要なスキル全般を指しますが、「概念が広大でつかみどころがない」と感じる人も多いのではないでしょうか。
本記事ではソーシャルスキルを分かりやすく定義します。さらにソーシャルスキルの種類やセルフチェック表、身につけるためのトレーニング手法もまとめました。
ソーシャルスキルの全体像と具体的な支援策を把握したい人は、ぜひ最後までご覧ください。
1.ソーシャルスキルとは?簡単に解説
ソーシャルスキルの定義や必要性を説明します。
「ソーシャル(Social・社会的な)スキル(Skill・能力)」といいますが、いったいどのような力なのでしょうか。
はじめにソーシャルスキルの概要を解説します。ソーシャルスキルが必要な理由や注意点もまとめました。ソーシャルスキルの全体像を、正しくつかんでおきましょう。
1-1.ソーシャルスキルの定義
ソーシャルスキルとは、人と対する場面でふさわしい振る舞いができる能力です。言葉による行動や身振り・仕草など非言語の行動、また行動を引き出す考え方や認知の仕方を包括します。
感情表現や相手の思いを推察する「コミュニケーション・スキル」と、人間関係の構築・維持や折衝を含む「対人スキル」に大別して考える場合もあります。
ソーシャルスキルは、社会生活に欠かせない人間関係を円滑に進めるために必要です。経済産業省が「社会人基礎力」のなかで重視する「多様な人と協働する力」は、まさにソーシャルスキルの上に成り立ちます。
ソーシャルスキルは別名、「社会的スキル」とも呼ばれます。
1-2.なぜソーシャルスキルが必要なのか
人は他者とのかかわりが欠かせない「社会」で生きています。
「自分の人生だから」「自分がやりたいことをやる」と本人がいくら思っても、他者とのかかわりなしに叶えるのは不可能です。やりたいことやビジョン・目標の達成は、他人と円滑な関係を構築できて初めて実現します。
こういった理由から、私たち人間には他者と良好な関係を構築・維持するソーシャルスキルが必要です。
ソーシャルスキルは、それを身につけることそのものが目的ではありません。叶えたい生き方を実現する基盤となるものがソーシャルスキルです。
1-3.ソーシャルスキルを扱う領域
ソーシャルスキルは生活のなかで自然に身につくものもあれば、特別なトレーニングを行ったほうが良い場合もあります。
ソーシャルスキルを身につけるために行う訓練を「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」と呼び、幼児・学童教育や就労支援、社会人のメンタルヘルスなどの領域で実施されています。
ソーシャルスキルトレーニングは子どもから大人まで、すべての年代を対象にします。トレーニングを受ける人が抱える課題にあわせ、ふさわしい言動ができるよう導きます。
ソーシャルスキルトレーニングの具体的なやり方は後述します。
1-4.ソーシャルスキルに関する注意点
ソーシャルスキルの注意点は、どのような場面でも万能ではない点です。
円滑な人間関係は、相手やTPOにあわせて柔軟にコミュニケーションをとりながら構築されます。
ソーシャルスキルは、こういった具体的な場面ごとに最適な振る舞いを示します。しかし、実生活のあらゆるシチュエーションに対応できるわけではありません。
教えられるのは、あくまで「よくあるいくつかの場面」に対応する振る舞いです。また学習者の成長とともに、必要なソーシャルスキルも変容します。
ソーシャルスキルトレーニングで学んだ内容を一般的に応用する工程は「般化」と呼ばれ、トレーニングメニューへの組み込みが推奨されています。
学習者が1つの学びをすぐに十の場面に応用するのは難しいかもしれませんが、長い目で見てサポートしていきましょう。
2.発達障害とソーシャルスキル
発達障害とソーシャルスキルの関係性を説明します。
発達障害を持つ人は、しばしば以下の特性を併せもちます。
◎ 発達障害の特性
- *相手の気持ち・感情を察するのが苦手
- *言外に含まれる意味を察するのが苦手
- *感情のコントロールが苦手
- *文脈に関係のない話を唐突に始める
- *衝動的に行動する
- *周りを気にせず自分のペースを貫く
相手の気持ちに配慮し、場合によっては、自分を制御しなければならないシチュエーションがあります。
他者をおもんばかった言葉や行動はソーシャルスキルの土台です。しかし、発達障害の人はこうした言動が苦手なため、ソーシャルスキルトレーニングで必要な力を身につけるサポートを必要とします。
ただし、発達障害は臨機応変な対応が苦手である点を踏まえることが大切です。ある場面でのソーシャルスキルを習得したからといって、似た別の場面に柔軟に応用できるとは限りません。
発達障害向けのソーシャルスキルトレーニングでは、場面を細かく設定し具体的に練習したほうが良い場合もあります。
<Tips>
日常生活で起こりうる細かな場面ごとに振る舞い・対応を習得させたい場合は「こんなときどうするSST(ソーシャルスキルトレーニング)」の手法を利用してください。
こんなときどうするSSTとは、名前のとおり「こんなとき、どうしたらいい?」と困りやすい場面をつぶさにピックアップし、ふさわしい振る舞いを伝えるトレーニング手法です。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
ただし必要な場面すべてに対してソーシャルスキルトレーニングを実施するのは、指導者の時間的にも現実的ではないでしょう。
短時間で効率良く、しかも少ない人手でソーシャルスキルトレーニングを実施するためには、最新テクノロジーの活用がおすすめです。
記事の最後に活用してみたいツールを紹介しました。あわせてご覧ください。
3.ソーシャルスキルの種類
ソーシャルスキルの種類を紹介します。
ソーシャルスキルは、社会生活を円滑に進めるために重要な力の総称です。
しかしさまざまな場面が集まってできている実生活では、場面によって必要なソーシャルスキルが異なります。
つまりソーシャルスキルは、場面や性質により細分化できることがわかります。
3-1.ソーシャルスキルは6種類に分けられる
「成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成」(相川充・藤田正美、2005)によると、ソーシャルスキルは性質から下位因子6種類に細分化できます。
人によって得意な因子と不得意な因子に差が出る場合もあります。
ソーシャルスキルの6つの性質を理解しておくと、学習者が必要とするスキルをピンポイントで見極められ適切なサポートを提供できます。
◎ ソーシャルスキル6種類
カテゴリ | 解説 |
---|---|
関係開始 | 人と気軽に人間関係をはじめられるスキル。初対面でも臆せず話せる、気軽に会話に参加できる など。 |
解読 | 相手の気持ちを推測し、自分がどう思われているかを察するスキル。表情から感情を読み取る、自分への好意を見分けられる など。 |
主張性 | 自分の意向や気持ちを、理由とともに相手にはっきり伝えられるスキル。嫌なことは嫌と言う、やりたくないことは断る など。 |
感情統制 | 気持ちを抑え、コントロールするスキル。イライラしても表情に出さないよう努力できる、感情に流された行動をしない など。 |
関係維持 | 良好な人間関係を維持するための努力ができるスキル。相手の立場を考えて行動する、その場にあった行動がとれる など。 |
記号化 | ノンバーバル(言語以外)でもコミュニケーションを図れるスキル。表情が豊か、身振り手振りを交えて話す など。 |
(参考:成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成|東京学芸大学)
3-2.<子ども向け>ソーシャルスキルの種類
人間関係構築力や社会性を身につけている最中である子どもたちに対しては、平易で分かりやすいソーシャルスキル区分が用いられます。
ソーシャルスキルの研究や実践の現場で利用されている1つとして、「4分類」・「12の基本スキル」を紹介します。
これらは「先生のためのやさしいソーシャルスキル教育」小林正幸著(2005)で提唱されている分類です。
4分類 | 12の基本スキル | 具体的な行動 |
---|---|---|
基本的なかかわりスキル | あいさつ | 「だれにでも」 「自分から」「顔を見て」「笑顔で」「聞こえる声で」など、人間関係をつくるため基本となるスキル。 |
自己紹介 | 「自分のことを話す」「相手の顔を見て話す」「聞こえる声で話す」など、自分のことを相手に伝えるスキル。 | |
上手な聴き方 | 「話している人を見て聞く」「あいづちをうつ」「最後まで聞く」など、相手の話に意識を向け、受け止めるスキル。 | |
質問する | 「分からないことを質問する」「内容を明確にして質問する」「順序立てて質問する」 「相手の都合に配慮して質問する」など、相手から情報を得るスキル。 | |
仲間関係発展・共感的スキル | 仲間の誘い方 | 「声をかける」「近づいたり手招きをしたりする」など、人間関係の形成や広がりを図るスキル。 |
仲間の入り方 | 「自分から仲間に入れてと言う」など、新たな人間関係の形成や広がりを図るスキル。 | |
あたたかい言葉かけ | 「ほめる」「励ます」「心配する」「感謝する」など、相手の気持ちを良好にして人間関係を深めるスキル。 | |
気持ちをわかって働きかける | 「相手の気持ちを読み取る」「共感する」「相手に働きかける」など、人間関係を親密にするスキル。 | |
主張行動スキル | やさしい頼み方 | 「困ったときだれかに頼む」「頼みたいことを明確にして頼む」「相手の都合を考えて頼む」など、自分の要求を伝えるスキル。 |
上手な断り方 | 「理由を言って断る」という、対等な人間関係を維持するスキル。 | |
自分を大切にする | 「不合理な要求を拒否する」「感情をコントロールする」など、自分を守るスキル。 | |
問題解決技法 | トラブルの解決策を考える | 「原因を考える」「解決策を複数考える」「解決に向けて行動する」「だれかに相談する」など、状況の改善に向けて複数の解決策を考え、自分にあった解決策を選択するスキル。 |
(引用:12の基本スキル|佐賀県教育センター )
4.ソーシャルスキルのセルフチェック表
自分自身や学習者が、どの程度ソーシャルスキルを持つかを簡単にチェックしたいときは下の表を利用してください。
これは成人用のソーシャルスキルを評定する尺度を考案した、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授の相川充氏によるチェック表です。
合計点が高いほど、ソーシャルスキルがあるといえるそうです。先に紹介したソーシャルスキル6種類それぞれの得意・不得意もわかります。
(引用:成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成|東京学芸大学)
4-1.ソーシャルスキルを測定するには
上で紹介したチェック表のほかにも、さまざまな評価尺度が開発されています。ただし、ソーシャルスキルを正確に評価するには、専門家の判断が必要です。
医師や心理士はソーシャルスキルの尺度テストや社会適応スキル検査などの結果と問診を踏まえ、ソーシャルスキルの度合いを判定します。
ソーシャルスキルに関して相談できる専門機関は、以下のとおりです。
◎ 大人の相談先
- *発達障害者支援センター
- *障害者就業・生活支援センター
- *相談支援事業所 など
◎子どもの相談先
- *保健センター・子育て支援センター
- *児童発達支援事業所
- *発達障害者支援センター
- *児童相談所 など
5.ソーシャルスキルを高める方法「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」
ソーシャルスキルを高める方法を紹介します。ソーシャルスキルに課題を抱える人に、必要な知識やスキルを身につけてもらうため訓練を実施する場合があります。
この訓練は「ソーシャルスキルトレーニング」と呼ばれ、やり方には一定の決まりがあります。
ソーシャルスキルトレーニングの概要とやり方を解説します。
5-1.ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは
ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training・以下、SST)とは、ソーシャルスキルを育む支援方法の1つです。
さまざまなプログラムを通じ、対人関係や自己表現、問題解決など社会生活に必要なスキルを身につけます。
子ども向けには学校や園での集団生活への適応を目的とし、大人向けには就労支援や職場の悩み・困難な状況の解決を主な目的として行われます。
関連記事:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?実施内容や効果、方法を解説
5-2.ソーシャルスキルスキルを身につけるSSTのやり方
SSTでよく実施される「ロールプレイ」では、以下の流れでトレーニングを進めます。
- 1.教示(スキルが必要な理由や、身につけるとどのようなメリットがあるかを解説)
- 2.モデリング(手本を示す。不適切な例を示し、不適切な理由を考える場合もある)
- 3.リハーサル(指導者やメンバーとともに、ロールプレイを実践する)
- 4.フィードバック(行動の適正度や改善点を演者に伝える)
- 5.般化(実生活やほかの場面で応用できるよう学びを深める)
ロールプレイのほかにも、SSTにはゲームやディスカッション、絵カードなどの手法があります。アプリや動画教材を使ったSSTも行われています。
5-3.SSTを受けられる場所
SSTは、トレーニングを必要としている人を支援する施設で行われています。施設によって実施の有無や受け入れ対象が異なるため、事前に確認してみてください。
◎大人向けSSTが行われている場所
- *精神科のデイケア
- *就労移行支援事業所
- *就労継続支援A型事業所・B型事業所
- *若者地域サポートステーション
- *地域活動支援センター
- *就労・生活支援センター など
◎ 子ども向けSSTが行われている場所
- *幼稚園・保育所
- *認定こども園
- *小学校・中学校
- *放課後デイサービス など
※各所を巡回する相談員やカウンセラーが実施するケースもある
6.最新テクノロジーを使ったSSTもおすすめ
社会で生きるために必要な力を身につけるSSTは、できれば頻繁に・バリエーション豊富に実施するのが望ましいとされます。
しかし支援の現場では人手や資源に限りがあり、十分行えないケースがあるのが現実ではないでしょうか。
もし人材やアイデアの不足でSSTを実施しきれていない場合は、最新テクノロジーを使ったツールの力を借りるのもおすすめです。豊富なSSTメニューを利用できる、VRによるSSTを紹介します。
6-1.VRを使ったSST
VR(Virtual Reality・仮想現実)は、専用カメラを装着した人の眼前360°に現実と錯覚するほどリアルな映像を投影する技術です。
没入感の高さが特徴で、近年では「映像のなかを自由に移動できる」「ものを動かせる」などハイクオリティな体験ができるVRもあります。
VRを使ったSSTとは学習者本人以外のロールプレイ映像を収録し、手軽にロールプレイができるよう工夫されたツールです。仮想現実のなかにいる相手と現実に対話している感覚が得られます。
6-2.「Realize VR」のメリット
VRを使ったSSTのなかでも、イチオシは「Realize VR」です。Realize VRは療育や特別支援、就業支援の現場支援に携わるRYD株式会社が開発しました。
支援の現場を知り尽くしているからこそつくれたバリエーション豊富な場面設定や、効率の良い学習メニューが特徴です。
収録されているロールプレイの場面は300以上あり、子どもから大人までさまざまな課題に対応できます。
VRによるSSTは、学習者がカメラを装着すればスタートできます。準備や導入に手間がかからず、スタッフを雇用する人件費や教育にかかる時間の節約や効率的な人員配置も実現可能です。
まずはRealize VRの現物をお試しください。「VRを活用した競合他社との差別化戦略」「運営の効率化による経営コストの削減」などのご相談も承ります。
7.まとめ
ソーシャルスキルとは、人が社会で生きるために欠かせない人間関係を円滑にすすめるために必要な力です。
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