社会に出るための技能訓練!発達障害を持つ大人向けのソーシャルスキルトレーニング
公開日: カテゴリー: SST
発達障害を持った方が、社会で生きていくために必要な技能を身につけるのは簡単ではありません。
とくに大人になれば仕事や日常生活などで、高度なコミュニケーション力が求められるようになります。こういった能力を身につける効果的な方法の1つが、ソーシャルスキルトレーニングです。
対人関係や社会生活を営むために必要な技能を、ソーシャルスキルトレーニングでは効率よく身につけられます。
たとえば、障害を持った方が就労を目指したり、復職を目指したりする際に、ソーシャルスキルトレーニングが役立ちます。
今回は発達障害を持った大人たちに、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を活用することで、どういった効果やメリットを与えられるのか、そして実際の実施方法をご紹介します。
発達障害を持つ大人が就職して困ること
発達障害を持った大人が会社に就職して困ることはさまざまです。
- ・挨拶をする/謝る/断るなどの基本的な会話をとれない。
- ・わからないことがあっても質問できない。
- ・自分の思いを伝えられない。
- ・環境に適応できない。
- ・人間関係を構築できない。
- ・体調の自己管理ができない。
など生活や仕事をする上で多くの壁にぶつかります。
また、これらはあくまでも就職した後に起こることであり、就職に至るまでにも履歴書を書いたり、面接をしたりなどほかにも壁が存在します。
こうした壁の存在により、就職を断念してしまったり、途中で退職してしまったりと、社会から遠ざかってしまう方は少なくありません。
発達障害やグレーゾーンで仕事をお探しの方は、以下の記事をご覧ください。
ソーシャルスキルトレーニングと大人の発達障害との関係性
会社に就職しても困らない技能を身につけるために、ソーシャルスキルトレーニングを活用します。
ソーシャルスキルトレーニングの対象は、発達障害であれば注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害であれば統合失調症が挙げられます。
また、ソーシャルスキルトレーニングは、認知行動療法に基づいた生活技能訓練として発達障害を持つ大人に対して活用されています。
適切な技能を獲得するにあたって、行動だけでなく、その行動に影響を及ぼしている認知的要素を考慮し、行動の修正を図っていきます。
発達障害を持つ大人に対して活用するソーシャルスキルトレーニングは、主に「就労」訓練がメインです。
「履歴書を書く」「面接をする」などの会社に就職するまでの活動から、「同僚に仕事をお願いする」「上司からの依頼を断る」など職場での立ち振る舞いまでを練習します。
就職・転職活動、職場での言動のほか、服薬や症状、体調などの管理もソーシャルスキルトレーニングでは扱います。
関連記事:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?必要性や各シーンを想定した方法を解説
就労移行支援で実施できるソーシャルスキルトレーニング
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づいて、障害のある方の社会参加をサポートするサービスです。
障害のある65歳未満の方が、一般企業への就職を目指すために、必要な技能を身につけるよう支援します。
SSTには、リバーマンが提唱した基本訓練方式とステップ・バイ・ステップ方式があります。
就労移行支援で、ステップ・バイ・ステップ方式が採用されたSSTの事例があるので、ここではステップ・バイ・ステップ方式のソーシャルスキルトレーニングを取り上げます。
ステップ・バイ・ステップ方式のソーシャルスキルトレーニングとは?
「ステップ・バイ・ステップ」は、米国のメリーランド大学で教授をしていたアラン・S・べラックが統合失調症患者に向けて作成したSST方式です。
ステップを踏むことによるコミュニケーション技法で、小集団で社会生活技能を学習します。社会生活活動を要素に分けて実施することで、より必要なスキルを獲得しやすいツールです。
①個々をアセスメント
面談形式で対象者それぞれをアセスメントします。
職場で起こった実際の場面や、本人が不安に感じる部分について聴き、問題点や必要な技能を見つけていきます。
②共通の課題・スキルの抽出
指導者がソーシャルスキルトレーニングの方法とどういった目的で実施するのか説明します。これは参加者全員が共通認識を持ち、プログラムを進めやすくするためです。
そのうえで参加者の共通の課題に対して、必要な技能をトレーニングすることで、場面を想定したロールプレイに結びつき、効果を得やすくします。
③プログラムの作成
次に今回のプログラムを設定します。
始めに「質問できるようになる」「仕事を依頼できるようになる」などの具体的な目標を掲げ、参加者が目標達成に向けて取り組んでいくよう促します。
目標を決めたらロールプレイする場面を設定し、場面に沿って役割分担を行います。具体的には、実演する本人、同僚役を演じる人、上司を演じる人などです。
④モデリング
指導者が見本となったり、動画を見せたりして参加者に観察してもらい、模倣してもらいます。見本はすべて正しい行動を取るのではなく、間違った行動も織り交ぜて、「よかった点」「悪かった点」をそれぞれ考えてもらいます。
⑤ロールプレイ
ロールリプレイとは、会社で起こり得る場面を想定して、グループで役割を決め、実際に実演することです。
設定した場面に沿って役割分担を行い、実演します。この時は普段自分が行っている行動をそのまま実演してもらいます。
具体的には、実演する本人、同僚役を演じる人、上司を演じる人などです。
⑥正、修正のフィードバック
指導者をはじめとする参加者からのフィードバックは、ポジティブなフィードバックを心がけます。実演者に対して否定はせず「〇〇がよかった」と肯定する意見を出し合います。正のフィードバックを踏まえたうえで、「こうすればもっとよかった」と修正点も伝えます。
就労移行支援では、こうした一連の流れで就労・復職を目指す対象者にスキル獲得を図ります。
(参照:平成28年度SSTスキルアップ研修会のご案内│社会福祉法人 釧路のぞみ協会)
大人向けのソーシャルスキルトレーニング(SST)を実施して得られる学習効果4つ
大人向けのソーシャルスキルトレーニング(SST)を実施して得られる学習効果を紹介します。
- ①質問の仕方を学べる
- ➁質問されたときの答え方を学べる
- ③依頼の仕方を学べる
- ④断り方を学べる
就労移行支援では就職を目指す方を支援します。
そのため、ソーシャルスキルトレーニングでは就職活動から、就職してからの職場での立ち振る舞いまでを学んでいきます。
ここでは、社会人として必須である技能4つに対して、ソーシャルスキルトレーニングをとおして得られる学習効果を紹介します。
①質問の仕方を学べる
会社で働いていて分からないポイントがあった際に、どのように質問すればよいか学べます。
相手に質問したい内容を頭の中で文章化して、それを口に出して伝えます。
また、質問内容だけでなく、頭に「すいません。質問したいのですが今お時間よろしいでしょうか?」などの断りを入れるのも重要です。
それに加え、質問するタイミングや状況を判断する必要があります。
相手が食事中に質問するのか、休憩中に質問するのか、相手が不機嫌なときに質問するのか、機嫌がよいときに質問するのかなど、自分の質問内容に加え、相手の状況も判断できるように練習します。
②質問されたときの答え方を学べる
とっさの相手からの質問に対して、適切な答え方を学べます。突然人から質問されると、焦ってしまい「何を答えればよいのか」判断がつかなくなるものです。
「提出した書類の内容について聞かれたとき」「自分の考えを聞かれたとき」などその場面に見合った返答を習得します。
また、同僚や後輩に質問されたときと、上司からの質問されたときの態度の変化も学びます。
③依頼の仕方を学べる
仕事の依頼をしたいときに、どのように頼めばよいのか学べます。
自分の仕事が切羽詰まった時に手助けを依頼するときや、自分の範囲外の仕事を他者に振るときなどに活用します。
「大変だと思いますが、明後日までに書類の提出をお願いいたします」など、頼まれた相手が気持ちよく引き受けられるように、依頼します。
④断り方を学べる
相手からの依頼に対しての断り方を学べます。
お願いされるとつい引き受けてしまう方が多いですが、何でもかんでも断らずに引き受けていると、自分のキャパシティーを越えてしまい仕事が辛くなってしまいます。
「すみません。今自分の仕事でいっぱいいっぱいなので断らせていただきます」と、相手の機嫌を損なわないように、断ります。
会社で活用できる大人向けのソーシャルスキルトレーニング例3選
大人向けのソーシャルスキルトレーニング(SST)を実施する目的は人それぞれですが、これから就職するための準備や実際に会社で働くためのスキルを身につけることが主たる目的です。
実際の就職活動で活用できるソーシャルスキルトレーニングを紹介します。
就職準備のためのソーシャルスキルトレーニング
新たな企業へ就職するために、必要な「就職活動」をサポートします。
就職活動をするために必要不可欠なコミュニケーション能力から始まり、履歴書の書き方や面接などの対策、生活リズムを整えるなど会社で働くために必要な技能をソーシャルスキルトレーニングを通して身につけていきます。
施設によってはパソコン作業などの技能的サポートをします。就労移行支援の一環として、こういったソーシャルスキルトレーニングを実施します。
職場復帰のためのリワークプログラム
職場復帰のためのトレーニングを通称「リワークプログラム」と呼びます。
リワークとは、精神的な不調から休職した方に、もとの会社へ復帰することを促す活動です。
プログラムに応じて、決まった時間に施設へ通うことで生活リズムの改善を促します。
施設内では対象者の仕事に近いデスクワークや軽作業を行い、それに加えて復職後の再発を防止するための疾病教育や認知行動療法などの心理療法を行います。
そして、休職の原因となるストレスの根源を見つけ、そこに対してソーシャルスキルトレーニングを活用して技能獲得を図ります。
休職してしまった根源が「対人とのコミュニケーション」と理解できても、直接的な解決にはつながりません。
どういった場面でのコミュニケーションなのか、何が問題だったのかを本人が理解(認知)することで、どう改善すれば復職が可能なのかを見つけ学んでいきます。
職場に復帰したら終わりではなく、復帰後も相談にのったり、働いてから発生した問題の解決策を考えたりなどの援助を行い、仕事に定着できるようアフターフォローもします。
(参照:リワークプログラムについて│一般社団法人日本うつ病リワーク協会/リワークプログラムについて (utsu-rework.org)
関連記事:復職支援プログラムとは?5つのステップとメニュー例│策定時の注意点も
職場定着のためのソーシャルスキルトレーニング
職場への定着支援として、障害雇用を設けている一般企業がソーシャルスキルトレーニングを実施しています。
これに取り組んでいる企業は一部ですが、社内に精神保健福祉士や臨床心理士などを配置し、入職希望者をサポートします。
障害の状態、本人の能力にかかわらず、「働きたい」と思う気持ちを尊重し、企業全体でフォローして、仕事に対する自信を得てもらうことを目的に行われています。
【年代別】ソーシャルスキルトレーニング(SST)の例8選|手順も解説
VR技術「Realize VR」活用した就労サポート
発達障害を持った方が、社会で生きていくために必要な技能を身につけるのにソーシャルスキルトレーニングは効果的です。
ソーシャルスキルトレーニングでは、就職活動から、就職した後の会社での立ち振る舞いまで学べます。障害者の雇用制度も改変され、障害者を雇う企業も年々増加しています。
そのため、就労移行支援でソーシャルスキルトレーニングを活用することで、障害を持つ方が社会で活躍できる可能性が増加していきます。
しかし、就労移行支援でいきなりソーシャルスキルトレーニングを実際に実施するのは、荷が重いと感じるのではないでしょうか?
ソーシャルスキルトレーニングの認定講師であるSSTトレーナーや、臨床心理士、精神保健福祉士を定期的に雇うのも費用がかかってしまいます。
就労移行支援で活用可能なVR技術を用いたソーシャルスキルトレーニングとは
発達障害を持つ方にソーシャルスキルトレーニングを実施するのは、技術面や費用面の問題から簡単なことではありません。
しかし、そんな問題を解決するために、いま注目を集めているのがVR(バーチャルリアリティ)技術を活用したソーシャルスキルトレーニングです。
VRヘッドセットを装着することで、360°の映像が目の前に広がり、限りなく実体験に近い体験ができます。誰でも一定のクオリティでソーシャルスキルトレーニングを実施できるメリットによって、現代ではさまざまな企業がVRを導入しています。
このようなVRによるソーシャルスキルトレーニングの実施は、企業の採用活動や業務にもよい影響を及ぼします。結果として社員の生産性の向上や口コミの波及につながり、企業の成長をサポートします。
社員教育や新卒採用の場面で活用できるVR教材
ソーシャルスキルトレーニングのVR教材「Realize VR」では、職場業務や社員教育などを想定した「150以上のリアルな体験」ができます。職場で発生するさまざまな問題・課題を体験できるため、社員の成長を促します。
- ●150種類以上の充実したシナリオ
- ●子どもから大人まで幅広い年齢が対象
- ●トレーニングごとに成長記録
- ●伸ばせるスキル(MSPA評価)を可視化
- ●没入感があり、集中力を切らさず取り組める指導システム
- ●多種多様な業種にあわせたオリジナルコンテンツの作成
などが特徴です。
VRを通して職場内を体験できるため、社内雰囲気や実際に働いている感覚を味わえます。もちろん、完全オリジナルのオーダーメイドコンテンツの作成も可能です。
本来、このようなオリジナルコンテンツの作成は、ソーシャルスキルトレーニングに精通したプロがいないとできません。ソーシャルスキルトレーニングの専門知識を持つ人材を雇うのは非常に難しいでしょう。膨大な採用コストもかかります。
しかしVR教材の「Realize VR」さえあれば、専門知識がなくても、受講者に応じたソーシャルスキルトレーニングを実施できます。トレーニング実施中に付きっきりになる必要もないので、教育コストの削減につながります。
就労移行支援施設や企業で、リアルなソーシャルスキルトレーニングを実施したいと考える方は、ぜひ一度お問い合わせください。