「こんな時どうする?」SSTの無料プリントやロールプレイのやり方を紹介
公開日: カテゴリー: SST
SSTのロールプレイでは、実際に子どもたちが困るシーンで実施するのが良いとお考えの方もいるかもしれません。
「公園で自転車のカギを失くしてしまった」
「授業がつまらなくて抜け出したくなった」
などは確かに子どもたちが困るシーンです。
しかし、ここまでの細かい場面をロールプレイで練習するのは、現実的には難しい現場が多いのではないでしょうか。
SSTの現場には時間や人手に制約があります。そのなかで、実生活で本当に困る場面をピンポイントで指導したいとの思いを叶えるには、「こんな時どうする?」SSTが効果的です。
本記事では、さまざまな「こんな時どうする?」を考えられるSST手法を解説します。大掛かりな準備は不要で、記事を読み終わったらすぐに取り掛かれます。
子どもたちの課題を具体的に解決するSSTの一手法として、「こんな時どうする?」をぜひ取り入れてみてください。
1.SSTで「こんな時どうする?」の練習が大切な理由
対人関係やコミュニケーション力の養成を意図する通常のSSTは、もちろん大切です。しかし、「こんな時どうする?」と細かな場面設定をしたSSTも重要な意味を持ちます。
まず、「こんな時どうする?」の練習が大切な理由を2つの側面から解説します。
1-1.判断してくれる大人が近くにいない場合もあるから
SSTが必要な子どもたちは、発達の過程でなんらかのつまずきを持っています。「場をわきまえない衝動性」「自我と他者意識の希薄さ」などの特性があり、精神的な未成熟さのある子どもたちもいるでしょう。
こうした子どもたちは、いわゆる「場にふさわしい判断」「臨機応変な対応」が苦手なケースが多く見られます。加えて、大人が最適な判断や対応を教えなければならないこともあります。
しかし、いつでも大人が近くにいてくれるとは限りません。小学校入学を機に行動範囲や交友関係が広がり、大人の目が届きにくくなる時間はどんどん増えるでしょう。
自分で場面最適な判断をするのが難しい子どもが一人で行動するようになると、「どうすればいいんだろう」と困ることが増えます。自分自身で最適な判断を下せるようになるためにも、細かい場面設定をした「こんな時どうする?」SSTが大切です。
1-2.自立し社会で生きるために大切なスキルだから
年齢を重ねるにしたがって、ますます自分自身で判断できるスキルは重要になります。大人になれば、なおさらです。仕事に就き、生活を成り立たせるためには「自分自身の判断力」が重要です。
また大人になると、自分の周囲にいる人がかならずしも発達障害やソーシャルスキルに理解がある人ばかりとは限りません。健常発達をしてきた人と同レベルの判断力・対応力を求められるシーンも増えるでしょう。
子どものころからの「こんな時どうする?」と判断する練習の積み重ねは、自立し社会で生きていくための基盤づくりでもあります。
2.SSTのテーマ「こんな時どうする?」の学び方
実際にSSTで「こんな時どうする?」をテーマにしたい場合、どのような学び方があるのでしょうか。
SSTを実践する支援の現場で取り入れやすい手法を、4つ紹介します。
2-1.プリントで学ぶ(SSTの無料プリントも案内)
プリント学習は、もっとも手軽な「こんな時どうする?」の指導法です。手順はつぎのとおりです。
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1.子どもたちが実生活で困りそうな場面をバリエーション豊富に用意する
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2.困りそうな場面を質問の形にしてプリントに書き出す
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3.質問に答える形で、最適な対応を考える
指導する子どもたちに即した、実際にありそうな場面を用意できればできるほど実生活にすぐ生かせるSSTになります。
最適な対応を考えるのに苦慮していたら、適宜「ヒントを与える」「一緒に考える」など手を差し伸べて構いません。
また考えた内容をロールプレイやディスカッションに発展させても、新たな気づきを得られます。
以下に「こんな時どうする?」 のSSTに利用できるプリントをダウンロードできるサイトをまとめました。掲載の場面も参考にしながら、子どもたちに最適な「こんな時どうする?」 を構築してみてください。
・こんな時どうする? | 専門家が作る子ども向け無料プリント『やんちゃワーク』
・こんなときどうする?無料SSTプリント「都合が悪かったら」 | たかちゃん先生の特別支援教育学習プリント・ワーク集
2-2.ロールプレイで学ぶ
「こんな時どうする?」 を大人数で学びたい場合は、ロールプレイ型にしてみましょう。
参加者の顔ぶれを見て、全員が共通して困りそうな場面をテーマにするのがおすすめです。課題に対する自分事意識が全員に生まれ、ロールプレイへの主体的な参加を促しやすくなります。
「こんな時どうする?」 のロールプレイも一般のロールプレイと同じ流れで進めます。この流れは以下のとおりです。
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1.テーマに沿った台本の用意
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2.モデリング
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3.模範対応の学習
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4.ロールプレイの実践
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5.般化
ロールプレイのなかでは、良い対応と比較学習させるために「ふさわしくない対応」を子どもたちが実演する場合もあるかもしれません。その際は役割を演じ終わったあとに、かならず「 〇〇さん、××の役は終わりました。ありがとう 」と、本名を呼びつつ役割の終了を全体に告げるようにします。
このワンクッションは、役割と子ども自身を明確に切り離す役目を果たします。ふさわしくない役割がその子ども自身と混同されないためにも、大切にしたい工程です。
関連記事:SSTでのロールプレイ実践方法|場面設定やシナリオ例、注意点も解説
2-3.ディスカッションで学ぶ
場面やふさわしい対応に関して参加者同士が話しあう「ディスカッション」は、単独でも、あるいはプリント学習やロールプレイと組みあわせても活用できる手法です。
指導者は設定した場面を共有し、参加者同士の話しあいをファシリテートします。次の3つのポイントを押さえると、進行が円滑になり密度の濃いディスカッションになります。
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*場面の正しい理解を促す(イラストや写真を使っての提示も◎)
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*出た意見を否定しない(全員の約束事として初めに伝えておく)
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*最後に対応を実践してみる(実演により習得度を高める)
ファシリテーターの介入度合いは、参加者の理解度・習熟度にあわせて調整しましょう。小学校高学年以上程度の参加者が多い場合は、ある程度は参加者同士の自然な話の進行に任せても良いかもしれません。
2-4.カードで学ぶ
「こんな時どうする?」 と考えさせたい場面をカード状にしておくと、ちょっとした空き時間やアクティビティの合間などに取り組めます。
カードを見せて「あなたならこんな時どうする?」と問いかけてみましょう。カードの手軽さもあいまって、子どもたちも気軽に考えを巡らせられる点もメリットです。またカードは没入しすぎず客観的に場面を考えやすいため、子ども自身が思ってもみなかった対応が思いつく可能性もあります。
カードを現場で手作りする手間がない場合は、市販のカードの利用がおすすめです。
参考:「発達協会式 ソーシャルスキルがたのしく身につくカード(2) こんなときどうする? 」
これは、療育や障害者福祉事業を手掛ける「社団法人精神発達障害指導教育協会」が作成したカードです。家や学校で起きやすい「ちょっとしたハプニング」110シーン分がカードに収録されています。
3.SSTで「こんな時どうする?」をトレーニングするときの注意点
「こんな時どうする?」 は子どもたちの日常に即したテーマを扱うため、学んだ内容を実践しやすい点がメリットです。ただし学習効果を最大化するために、事前に注意点を押さえておきましょう。
「こんな時どうする?」 をSSTで実践する際に気を付けたいポイントを、3つ解説します。
3-1.日常に即したバリエーション豊富な場面を用意する
子どもたちが日常生活で本当に困るのは、大人が見ると些細で思いもよらないような場面であることが多いようです。
「こんな時どうする?」SST に向いている場面設定の例を紹介します。
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*「ブランコで遊んでいたら、友達が後ろから強く押してきた。どうすればいい?」
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*「家に一人でいたら呼び鈴が鳴った。どうすればいい?」
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*「ゲームが欲しいと言ったら、お母さんに『ダメ』と強く言われた。どうすればいい?」
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*「目の前のことに夢中になりすぎ、お漏らししてしまった。どうすればいい?」
「こんな時どうする?」 のSSTを成功させるには、子どもたちの「困った!」をできるだけ具体的に想像し、バリエーション豊富に場面設定することが秘訣です。
ロールプレイのテーマとして扱われやすい「典型的な対人関係の場面」を脱し、日常をつぶさに見て場面設定を考えてみてください。
3-2.子どもが経験したことのある場面から始める
SSTで「こんな時どうする?」と考えるのは、放課後デイサービスや特別支援の教室内です。「実際に困っている最中」「切羽詰まっている」ときではありません。
実際の場面に直面していないため、状況をイメージしにくい子どももいる可能性がある点に配慮が必要です。
もし状況をイメージできない子どもがいた場合は、該当する子どもが困った経験がある場面を扱うようにしましょう。自分の経験や困った思いと重ねあわせると、「こんな時どうする?」 で提示された場面をイメージしやすくなります。
3-3.どのような答えも否定せず、発展的な学びにつなげる
「こんな時どうする?」 を学ぶSSTに正解や唯一の解はありません。どのような発言が出ても否定せず、さらなる学びに発展させられるような受け止め方をしましょう。
◎ 突飛な回答が出た場合におすすめの返し方
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*「そういう対応もありかもしれないね!」(受け止める。明るくポジティブに)
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*「〇〇くんはそう思うんだ!なるほど、△△さんはどう思う?」(別の視点からの発言を促し、発展させる)
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*「その対応は先生には思いつかなかったな~!」(自尊心を満たし、前向きな取り組み姿勢を維持させる)
否定は発言した子どもの自尊心を傷つけ、トレーニングへの参加意欲を減退させます。どのような答えもいったん受け止め、全体でポジティブに考えていけるよう工夫してみてください。
4.「こんな時どうする?」SSTの場面設定のヒント
「こんな時どうする?」 のSSTでは、子どもたちの現実に即しバリエーション豊富な場面設定をするのが成功の秘訣です。しかし「そういわれても、そんなに思いつかない」と困る指導員もいるのではないでしょうか。
ここでは「こんな時どうする?」 のSSTに向いた場面を探す方法を、3つ解説します。
4-1.子どもたちの生活を観察して
子どもたちの生活には「困った」「こんなときどうしたらいい」が詰まっています。まずは子どもたちの様子をつぶさに観察して、さまざまな場面をピックアップしてみましょう。
子どもたちの行動を時系列で追っていくと、さらに「困った」を見つけやすくなります。入室時、勉強中、休憩中、友達とのかかわり、食事中…など、場面ごとによく見てみてください。本当に困っているときは言葉に詰まるケースが多いため、表情や動きから心の動きを推測する意識が大切です。
4-2.プリント教材のダウンロードサイトから
「こんな時どうする?」 のダウンロードサイトからプリントを印刷し、すみずみまで見てみましょう。
プリントには、プリント作成者が見つけたさまざまな「こんな時どうする?」 が詰まっています。見ていくと目の前の子どもたちも困りそうな場面や、場面を見つけるヒントが得られます。
また1枚のプリントから連想するやり方もおすすめです。「公園で自転車のカギを失くして困っている」場面は、場所や失くしたものを変えると別の場面での「こんな時どうする?」 が生まれます。
4-3.子どもたち自身に「困った場面」を考えさせてもよい
子どもたちから、これまでどのような「困った!」があったか聞き出しても良いでしょう。より子どもたちの現実に即した場面が抽出できます。
ただし子どもは、過去のできごとは忘却してしまいがちです。いきなり「これまでに『困った!』と感じたのは、どんな場面?」と聞いても、思い出せない子どものほうが多いかもしれません。
プリントやカード、口頭でいくつかの場面を例示して記憶を辿りやすくさせつつ、じっくりヒアリングしてみましょう。
5.SSTのバリエーションを増やす「Realize VR」
もしSSTのマンネリやテーマ不足に悩んでいたら、バリエーション豊富なSSTを手軽に提供できる「Realize VR」がおすすめです。
Realize VRはVR(Virtual Reality・仮想現実)技術を活用した新しいSST手法で、人手やSSTアイディアの不足に悩む現場で多数使われています。
新たなSST「Realize VR」を、詳しく解説します。
5-1.Realize VRとは
VRは、専用ゴーグルで人間の視界360°を覆い映像を映します。視界のすべてが映像になるため、自分が実際にその空間にいる仮想感覚が得られます。
Realize VRは「まるでその空間に自分がいるような現実感」を得られるVR技術を、SSTに応用したサービスです。カメラをセットするとSSTが必要な場面が映し出され、実際に人が登場しやり取りしながらSSTを進めます。
参加者には現実に限りなく近いコミュニケーション体験を提供し、指導者には人手不足とアイディア不足を解決する手段を提供しています。
5-2.Realize VRがおすすめの理由
Realize VRには、SSTを必要とする人が困難を感じやすい場面を300以上収録しています。いずれも学校から会社、身近な人との雑談まで、「その場面が欲しかった」と言われる場面ばかりです。
現場で、300以上の場面設定をし「こんな時どうする?」 やロールプレイをするのは難しいのではないでしょうか。Realize VRなら、 カメラをセットするだけの手軽さですべての場面のSSTをスタートできます。
Realize VRのSSTは、子ども向けから大人向けまで揃っています。受け入れ可能な対象年齢を広げ、事業の幅を広げたい事業所にもおすすめです。
6.まとめ
「こんな時どうする?」 、それは子どもたちが切実に困っている実生活の小さな困りごとを解決するSSTのキーワードです。ロールプレイにするほどではない些細なできごと、しかし子どもたちが実際に困難を感じている場面での対応を指導したい場合に、ぜひ「こんな時どうする?」 SSTを取り入れてみてください。
「こんな時どうする?」 のSSTを成功させるには、できるだけ参加する子どもたちの生活に即したリアル感あふれる場面設定が重要です。子どもたちの様子を観察し、既存のプリント教材も参考にしながらバリエーション豊かな場面を設定してあげてください。
多くの場面への対応力を手軽に育てたい場合は、VRを使ったSST「Realize VR」の導入もおすすめです。参加者にも指導者にもメリットが大きなRealize VRを、まずは試してみてはいかがでしょうか。