【発達障害タイプ別】向いてる仕事と長く働くコツ、悩みの解決方法
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発達障害はその特性ゆえ、健常発達者以上に「仕事が長続きしない」「職場になじめない」と悩む人が大勢います。
しかし、自立には就労が欠かせません。発達障害の人でも働ける職場、長続きする仕事はどうすれば見つかるのでしょうか。
この記事では「自分にあう仕事に就きたい」「意欲的に働きたい」と願う発達障害者に向けて、相性の良い仕事の見つけかたや職種の例を紹介します。
ASD、ADHD、LDのタイプ別に適職の探し方と、向いている仕事をまとめました。
避けたほうが良い仕事や「自分に向いてる仕事なんてない」と気持ちが滅入ったときの対策も解説しました。発達障害の特性を踏まえつつ、長く安心して働ける仕事さがしの一助にご活用ください。
1.発達障害のおもな3区分
厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」および、米国精神医学会の診断基準「DSM-5」では、発達障害に分類される症状は7つあります。
ここでは7つのなかでも就労に困難をきたしやすい症例を3つピックアップし、特性を解説します。
1-1.ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は、コミュニケーションや対人関係に課題が出る障害です。
他人への興味が薄く「表情から気持ちを推測する」「暗黙の了解を理解する」など、言葉にならない関係性が苦手だとされます。
また自分なりのこだわりを強く持つ人が多めです。周囲のルールよりマイルールにこだわりやすく、周囲との軋轢となる様子も見られます。
◎ ASDとは・・・
2013年、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」にて、複数の発達障害をまとめてASDに統一しました。それまでは「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」と呼ばれていた症例は、現在はすべてASDと診断されます。
従来は区別されていたいくつもの症状がASDに含まれるため、ASDといっても特性や程度は人によってさまざまです。
ただ一般的にASDの人は、他人とのかかわりが多い仕事や察知するコミュニケーションが必要な仕事には向いていないといわれます。
1-2.ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHDは日本語で「注意欠陥・多動性障害」と呼ばれるとおり、不注意や多動・衝動性が特徴です。
不注意は女性に、多動・衝動性は男性に強く出るといわれますが、かならずしも全員に当てはまるわけではありません。不注意と多動・衝動性の片方だけを持つ人も、両方を持ちあわせる人もいます。
ADHDの特性は「じっくり考えることが苦手」「落ち着きがない」などです。
確認をしないまま行動に移すケースも多く、忘れ物やミスを多発します。集中力の持続も困難で、長い時間コツコツと作業を続ける仕事も苦手です。
1-3.LD(学習障害)
LDは学習に必要な能力のうち、特定の何かが欠けている状態を指します。どのような能力を苦手にするかによって、苦手な仕事が異なります。
◎ 学習障害の例
症状 | 特徴 |
---|---|
・読字障害(ディスレクシア)
・書字障害(ディスグラフィア) |
文字の読み、あるいは書きができない。他人に読んでもらえれば理解できる。 |
・算数・計算の困難 | 数字や計算が理解できない。簡単な計算にも指が必要。数の大小が把握できない。 |
・推論の困難 | 物事や話の流れを理解できない。ストーリーをイメージし理解することが苦手。 |
LDは苦手分野以外の発達には問題が見られません。苦手分野のサポートを受けられると、健常発達者とおなじように仕事に取り組める可能性があります。
2.発達障害(ASD・ADHD・LD)の適職の探しかた
発達障害の人が適職を探す方法を紹介します。
- 1.自分の特性を把握する
- 2.専門家の助けを得る
- 3.発達障害者向けの転職エージェントを利用する
発達障害の人が適職に出会うには、自己分析と専門家のサポートが大切です。また発達障害専門の転職エージェントも利用してみましょう。
それぞれのポイントや注意点を解説します。
2-1.自分の特性を把握する
発達障害と一括りにしがちですが、特性はさまざまです。ASDやADHD、LDと診断が出たとしても、強く出る症状や程度は一人ひとり異なります。
発達障害の人が適職に出会いたい場合、自分の特性を正しく把握しましょう。特性が把握し苦手が明確になれば、苦手なことが少ない職場を探しやすくなります。
発達障害の仕事探しで把握しておきたい特性は、つぎの2点です。
- ●自分の得意と不得意
- ●どのようなサポートがあれば苦手にも取り組めるか
読字障害の人が「誰かに読んでもらえれば内容理解ができる」、ASDの人が「仕事のマニュアルがあればきちんと遂行できる」など、必要なサポートを明確にしておくと職場も対応の可否を検討しやすくなります。
また発達障害の人は、際立った得意分野を持ち合わせているケースも多々あります。得意を活かせる仕事を探すと、新しい道が見つかるかもしれません。
2-2.専門家の助けを得る
適職探しには、医療機関や専門家の助けも利用しましょう。とくに診断書は発達障害の症状を客観的かつ説得力を持って相手に伝えたいときに有効です。
筆者の娘は専門医からASDの診断が下りています。ただ日常生活ですぐに顕著な困りごとに直面するほどでもないため、小学校入学にあたって「通常学級でも頑張れるのではないか」と話す関係者もいました。
ただ、最終的には特別支援学級に籍を確保しています。
娘の学校は地域有数のマンモス校です。
特別支援級を希望する家庭も多かったそうですが、比較的軽症にもかかわらず支援級を獲得できたのはひとえに「診断書のおかげ」です。関係者も「診断書があったから」と口をそろえていました。
働きやすい仕事を見つけるために、利用できるものはなんでも利用しましょう。仕事探しに貪欲な姿勢が、あなたに適職を引き寄せます。
2-3.発達障害者向けの転職エージェントを利用する
発達障害の認知が広がるにつれ「発達障害の人」が増えています。実際に受診し発達障害だと診断された人もいれば、「生きづらさは発達障害のせいではないか」と考えるグレーゾーンの人もいます。
グレーゾーンを含む発達障害の人が増えるにつれ、彼らの仕事探しを支援するエージェントも出現しはじめました。発達障害一人ひとりの特性を踏まえ、働きやすい職場を探し橋渡しをしてくれる強い味方です。
サービスの利用にあたって障害者手帳が必要かどうかは、エージェントによって異なります。手帳申請中、また手帳なしでも利用できるエージェントも多数あります。
関連記事:発達障害を持つ大学生向けの就労支援事例と自分でできる就職活動の準備
3.ASDに向いてる職業・仕事
ASDの人に向いている職場・仕事を紹介します。
ASDはコミュニケーションや社会的やりとりに困難を感じます。とくに苦手を感じる場面は人によって異なりますが、一般的には以下のようにいわれます。
◎ ASDの特性(一例)
- 表情が乏しく、気持ちが読み取れない(自閉症)
⇒ コミュニケーションに 苦労しやすい
- 感覚が過敏(光・音・においなど)(広汎性発達障害)
⇒ 日常生活に支障がでやすい
- 興味や行動が反復的にパターン化している(アスペルガー症候群)
⇒ 新奇な場面や臨機応変な対応が苦手
さまざまな症状を包括するASDですが、一般的に他人と多くのコミュニケーションを取る機会が少ない仕事が向いているでしょう。
リモートワーク中心で出社の必要がない職場や、マニュアル化された仕事もおすすめです。
ASDは得意分野に周囲が驚くほどの集中力を発揮する強みもあります。強みを活かし、コツコツと継続して成果を出す仕事にチャレンジしても良いでしょう。
<ASDに向いている仕事>
- ・プログラマー、エンジニア
- ・研究者
- ・経理・財務
- ・個人情報の管理者
- ・工場のライン作業者 など
4.ADHDに向いてる職業・仕事
ADHDの人に向いている職場・仕事を紹介します。
ADHDは注意不足や多動・衝動性が特徴です。程度は人によってさまざまですが「同じ場所に座っていられない」「衝動的に飛び出してしまう」など、職場適応が難しいケースも見られます。
◎ ADHDの特性(一例)
- 注意が散漫。気が散りやすく、集中の持続が難しい(不注意)
⇒ 忘れ物をする、予定を忘れる
- 本人の意思とは無関係に身体が動いてしまう。一か所に落ち着いていられない(多動性)
⇒ 無断で職場を離れる
- 熟慮せず思いついたことを即座に行動に移してしまう(衝動性)
⇒ しっかり考えれば防げるトラブルを引き起こす
ADHDの特性は、本人の意思ではどうしようもないものばかりです。そのため一人で完結させなければならない仕事より、相談相手や管理してくれる人がいる仕事が向いています。
好奇心が強く、新しいことへの興味が強い点はADHDの強みです。毎日違う作業に取り組める仕事を探してみましょう。
<ADHDに向いている仕事>
- ・旅ライター
- ・料理人
- ・フォトグラファー
- ・デザイナー など
5.LDに向いてる職業・仕事
LDの人に向いている職場・仕事を紹介します。
LDは苦手な領域がはっきりわかりやすい発達障害です。苦手分野を把握し「苦手を避ける」「サポートを受けながら苦手に挑戦する」のどちらかで適職を探しましょう。
有名俳優にも読字障害(ディスレクシア)が多い事実は、あなたを勇気づけるかもしれません。俳優にとっての読字障害は「脚本が読めない」という致命的な弱みになります。
以下の顔ぶれを見てください。みな、読字障害を持っていると言われています。
- ・トム・クルーズ
- ・キアヌ・リーブス
- ・ジェニファー・アニストン
- ・オーランド・ブルーム
- ・キーラ・ナイトレイ
トム・クルーズは脚本をテープに録音してもらい、聞いて覚えたそうです。キーラ・ナイトレイは色つきの眼鏡をつかって文字が混じって見えない工夫で、読字障害を乗り越えました。
読み書き・計算の少ない仕事を探すなら、デザイナーやカメラマンが良いでしょう。周りのサポートやツールを活用し、やりたい仕事にチャレンジする道もあります。
関連記事:発達障害のグレーゾーン│向いている仕事と直面する課題、就職活動のコツ
6.発達障害の人が避けたほうがよい仕事
サポートやツールの活用で乗り越えられる困難もある一方で、発達障害の特性ゆえに避けたほうが良い仕事もあります。3つの仕事のタイプを紹介します。
- 1.ニュアンスを汲み取る必要がある仕事
- 2.自分ですべての段取りを組む仕事
- 3.臨機応変な対応が求められる仕事
知らずに就いてしまうとあなたも、職場もお互いにしなくて良い苦労をする結果になりかねないため、向いていない仕事の把握は大切です。
6-1.ニュアンスを汲み取る必要がある仕事
発言のニュアンスを汲み取り、先を読んだ行動が求められる接客業は避けたほうが無難です。コミュニケーションに対する顧客の要求レベルも高いため、疲弊してしまいかねません。
例:CA、ホテル、百貨店の外商 など
6-2.自分ですべての段取りを組む仕事
自分一人だけで取り組む仕事や、段取りのすべてを自分で組む必要がある仕事は向いていません。不注意からタスク管理がおろそかになり、うまくいかなくなるおそれがあります。
例:自営業、フリーランス など
人間関係の負担が少なく、一人でできる仕事をお探しなら「発達障害が一人でできる仕事は?探し方とデキる人になる工夫まで」の記事もあわせてご覧ください。
6-3.臨機応変な対応が求められる仕事
場の空気を読んだ対応やアドリブ、相手によって伝え方を変えなければならない仕事も避けたほうが良いでしょう。臨機応変に対応しきれず、相手から不満をぶつけられるかもしれません。
例:新規開拓営業、医師、教師 など
7.発達障害の人が安心して仕事を続けるポイント
発達障害の人が安心して仕事を続けるポイントを紹介します
- 1.障害者枠で雇用してもらう
- 2.周囲に自分の得意・不得意を素直に伝える
- 3.上司や同僚への報連相をパターン化する
発達障害の仕事探しは、簡単ではありません。見つけた仕事はできるだけ長く続けたいと思うのは、自然な気持ちです。
では発達障害の人が安心して長く働き続けられる仕事は、どのような点に注意すれば見つかるのでしょうか。ポイントを3つ解説します。
7-1.障害者枠で雇用してもらう
国は障害を持つ人も働く機会を平等に得られるよう、企業に対し一定数の障害者を雇う義務を課しています。
この決まりにしたがって設定された採用枠が「障害者枠」で、障害者の就労機会を確保する一助となっています。
発達障害の人も手帳を持っていれば、障害者枠への応募が可能です。障害者枠で採用されると、発達障害の特性や程度に応じて職場から配慮を得ながら働けるようになります。
特性を踏まえた職場環境を確保してもらえるため、安心して働ける職場が見つかりやすい点がメリットです。
ただし障害者枠での採用は、健常発達者と比べて給与や昇進などの面で不利になるケースも散見されています。障害者枠と健常者枠のどちらに応募すべきか迷ったら、医療機関や専門家に相談してみましょう。
7-2.周囲に自分の得意・不得意を素直に伝える
就労に当たっては、周囲に自分の特性をオープンにしておくことをおすすめします。
特性を隠したまま就労すると、周囲は「(健常者なのに)困った人」「職場のトラブルメーカー」と考えてしまい、お互いにとってプラスがありません。
苦手や努力ではどうにもならないことを事前に伝えた上での就労なら、特性に対する理解も得やすいでしょう。理解が深まれば、余計な軋轢もなく仕事に集中しやすくなります。
7-3.上司や同僚への報連相をパターン化する
「臨機応変な対応が苦手」「忘れやすい」特性がある人は、職場に欠かせない「報連相」に苦労するかもしれません。
そんなときは、パターン化の工夫で困難を軽減しましょう。必要な内容を漏らさず伝えられるパターンをつくり、パターンに沿って報連相を行います。
周囲は必要な情報を得られ、自分の確認にもなり円滑な職務遂行が可能になります。
必要な情報を抜け漏れなく入れるため、パターンは上司と一緒につくりましょう。そのためにも自己の特性を伝えることが大切です。
関連記事:発達障害は仕事ができない?特徴の見分け方と職場づくりのヒント
8.「自分に向いてる仕事なんてない」と感じたときにためしたいこと
仕事探しや転職活動を続けるなかで、ストレスや理不尽に直面する日もあるでしょう。「自分に向いてる仕事なんてない」と、落ち込みたくなる日もあるはずです。
モチベーションが下がったときの解決策を2つ、紹介します。
8-1.信頼できる人に悩みを吐き出す
自信がなくなり、自己嫌悪に陥ったときは家族や信頼できる友人に話をしてみましょう。人間には心のモヤモヤを吐き出すとすっきりし、リラックスできる特性があります(カタルシス効果)。
うまく言葉にできなくても構いません。思い浮かぶ言葉を綴っていくだけでも、気持ちが徐々に落ち着いてきます。
「他人と話すのは苦手」「話せる人がいない」場合にはアプリがおすすめです。スマートフォンのアプリストアで「愚痴アプリ」と検索してみてください。さまざまなアプリがヒットするはずです。
匿名で気持ちを投稿できるアプリやキャラクターがリアクションしてくれるアプリなど、吐き出したい方法に合わせてチョイスできます。
8-2.相談機関・支援機関を利用する
発達障害にあう仕事探しで、具体的な解決策がほしいときは、相談機関・支援機関の利用がおすすめです。
発達障害の人が仕事探しや職場の悩みを相談できる場所をまとめました。必要に応じて、利用してみてください。
相談先 | 相談できる内容 |
---|---|
地域障害者職業センター | 職場適応に必要な支援とその方法、職業リハビリテーション計画 など |
ハローワーク | 特性にあった職業の紹介、職業訓練の紹介、悩み相談 など |
障害者就業・生活支援センター | 就労準備、就職活動の支援、職場定着のサポートなど |
就労移行支援事業所 | 職業訓練、インターン斡旋、キャリアカウンセリング、書類作成サポートなど |
9.発達障害の就労サポートにテクノロジーの力を
テクノロジーも、発達障害を持つ人の就労をサポートします。いま、VR(Virtual Reality・仮想現実)をつかった就労サポートが注目を集めているのはご存知でしょうか。
最新テクノロジーを活用した就労サポートを紹介します。
9-1.VRをつかった就労サポート
臨機応変な対応やコミュニケーションが苦手な発達障害の人にとって、就労は決して簡単なミッションではないでしょう。初めて会う人も多く、予期できない出来事も多発します。
だからこそ「さまざまな事態への対応力を身につけたい」と思う人には、テクノロジーの力を借りたサポートがおすすめです。
現代は就労支援の場にもテクノロジーの活用が進んでいます。
VRをつかって実体験に限りなく近いロールプレイができる「Realize VR」は代表例です。VR内の人とやり取りしながら学べるため、対人の心理的負担が少ない点でもおすすめできます。
課題を持つ人が円滑に社会生活を送れるようにサポートする「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」も、VRをつかって受けられます。
関連記事:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?実施内容や効果、方法を解説
9-2.Realize VRのおすすめポイント
Realize VRには、職場でよくある場面を中心に150以上のストーリーを収録しています。
電話応対や上司への相談、休憩中の雑談、ミスの報告など、どれも思わず「あるある」とうなづいてしまうものばかりです。VR特有の没入感とカメラを装着するだけの手軽さで、実戦的な的な就労サポートを受けられます。
カメラさえあれば自宅でもできるRealize VRを、まずは試してみてはいかがでしょうか。
10.まとめ
発達障害の人が自分に向いてる仕事を見つけるには、特性の正しい理解が欠かせません。
ASD・ADHD・LDを区別し、さらにとくに苦手な領域を把握しましょう。自己分析が難しい場合は、医療機関や専門家への相談がおすすめです。
特性を把握したら、特性に合った仕事を探します。グレーゾーンを含む発達障害の人が利用できる就労支援や転職エージェントも、積極的に利用してみてください。医師の診断書や障害者手帳を取得しておくと、障害者枠への応募が可能になります。
仕事探しと同時進行で、職場適応訓練も進めましょう。就労訓練は支援センターで受けられるほか、VRカメラをつかって自宅で自分のペースで進めることも可能です。150以上のリアルな場面を収録したRealize VRは、お試し利用も承っています。