発達障害は仕事ができない?特徴の見分け方と職場づくりのヒント
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発達障害は、正式には医師の診断で確定します。
しかし「診断はされていないが、限りなく発達障害に違いグレーゾーン」「病院には行っていないが発達障害と似た特性がある」人は7人に1人いるとも言われ、企業でも無視できないボリュームとなっています。
子どものころ見過ごされた発達障害が後から判明する「大人の発達障害」も増えており、何かしらの対応が必要だと感じる企業も多いのではないでしょうか。
本記事では「何をやらせてもミスばかり起こす従業員は発達障害なのか」をメインテーマに、職場での発達障害を解説します。発達障害の特性と、彼らの得意分野を見い出し活用に成功した事例も紹介します。
従業員一人ひとりがもっと活躍できる企業をつくるために、ぜひ最後まで読みヒントを見つけてください。
1.発達障害とは
発達障害は脳機能の発達の偏りにより、得意・不得意が一般の人より顕著にあらわれ日常生活に困難を感じる症状です。
生まれつきの特性で、多くは集団生活がはじまる就園・就学をきっかけに見つかります。近年、発達障害への理解が深まるにつれ「大人の発達障害」も注目されるようになりました。
はじめに就労の場面で課題に直面しやすい発達障害3種類と、発達障害の概要を解説します。
1-1.ASD(自閉スペクトラム症)
ASDはおもにコミュニケーション面に課題を感じやすい人の総称です。
自閉症やアスペルガー症候群と細かく区分した時代もありましたが、現在はまとめて「自閉スペクトラム症」とされています。
ASDは強いこだわりを持ち、いわゆる「空気を読む」言動が苦手です。感覚が過敏で光や音、味などに異常な嫌悪感を示す人もいます。
特定の分野に際立った関心を寄せ、一般の人を凌駕する知識を持つケースもあります。
1-2.ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDは以下の2つの特性を包括する症状です。
- ・注意欠如:不注意やうっかりミスが多い。片付けが苦手。
- ・多動:じっとしていられない、落ち着きがない
不注意や多動に起因する困りごとが頻発し、日常生活に支障をきたすようになるとADHDと診断されます。
幼少期は「やんちゃな子」「元気な子」と認識され、ADHDが見逃される場合も少なくありません。成長するにつれて周囲への適応が困難になり、発達障害だと明らかになる人もいます。
1-3.LD(学習障害)
学習障害とはいいますが、知的な面に遅れはありません。
ただ「読む・書く・計算する」のうちのどれか、あるいは複数が極端に苦手な状態がLDです。
読み書き・計算に必要な脳機能のどこかに困難が生じているのがLDの原因です。遺伝的要因と環境的要因が影響しあって発症すると考えられています。
どの作業に困難を感じるかは人それぞれ異なるため、日ごろの行動を細かく観察し苦手を特定します。
1-4.発達障害の「グレーゾーン」とは
発達障害のグレーゾーンとは、発達障害らしい症状・傾向があるものの「障害として医療機関から診断はされていない」状態です。
白(健常発達者)と黒(発達障害者)のあいだを意味し「グレー」と呼ばれます。
グレーゾーンという診断があるわけではない点に注意してください。医療機関で発達障害の診断が下りなかった場合は、公的には「発達障害ではない」とみなされます。
生活のしにくさ・生きづらさを確かに感じる人をグレーゾーンといいます。また受診していないが、発達障害の傾向がある人もグレーゾーンに属します。
発達障害かどうかのチェックには、厚生労働省が提供する「e-ヘルスネット」の閲覧がおすすめです。正しい知識がわかりやすくまとまっています。
関連記事:発達障害のグレーゾーン│向いている仕事と直面する課題、就職活動のコツ
1-5.「大人の発達障害」とは
発達障害は先天的な脳機能の偏りに起因し、症状は幼少期からあらわれます。しかし子どもはそもそもコミュニケーションや言動が未成熟です。
発達障害があっても「少し変わった子」と思われる程度です。周りに受け入れてもらいやすく、当人もなんとか順応していけるケースも少なくありません。
ところが、大人になり高度で複雑なコミュニケーションが必要になると、子どもと同じようにはいかなくなります。
困難を感じる場面が増え、「もしかしたら」と受診したら発達障害と診断される人がいます。これが大人の発達障害です。
発達障害のうち、多動は自制心によってコントロール可能な症状です。
大人の発達障害はコミュニケーションが不得意なASDや、不注意が頻発するADD(H:hyperactivity・多動を除いたADHD)が顕著にあらわれます。
2.仕事がうまくできない発達障害者にみられる特徴
発達障害があると、仕事でさまざまな困難を感じやすくなります。
以下に仕事がうまくできない発達障害者にみられる特徴をまとめました。当てはまる項目が多い人は、発達障害の傾向が強いと考えられます。
<ASDの特徴>
- ・表情や身振りなど、非言語コミュニケーションが理解できない
- ・相手の感情に配慮した言動ができない
- ・皮肉や冗談、建前、社交辞令が通じない
- ・特定の物事に強い興味・こだわりを見せる
- ・決まった行動パターンや手順にこだわる
- ・光や音、においなどの感覚刺激に過敏
<ADHDの特徴>
- ・ミス・抜け漏れや忘れ物が極端に多い
- ・整理整頓ができない
- ・すぐに別のことに気を取られる
- ・言われたことができない
- ・2つのタスクを同時にできない
- ・ずっと同じ場所にいられない
<LDの特徴>
- ・文字を正しく読めない、たどたどしい
- ・文章の意味を読解できない
- ・「てにをは」を正しく使えない
- ・文字の大きさを揃えて書けない
- ・数字感覚がない
- ・計算や推論ができない
3.発達障害かサボっているだけかを見極めるポイント
「ミスや忘れ物が多い」「相手に配慮したコミュニケーションができない」などの発達障害の特徴は、サボっていると見られる場合があります。
もし当事者が発達障害ではなくサボっているだけだとしたら、上司や人事担当はしっかり指導しなければなりません。しかし発達障害だとしたら、サボりに対する指導では的外れです。
相手にあわせた対応ができるよう、発達障害とサボりを見極めるポイントを理解しておきましょう。
3-1.発達障害は手を抜いているわけではない
発達障害とサボりとを見極める最初のポイントは「手を抜いているかどうか」です。
発達障害は生まれ持っての特性であるため、苦手なことは心底苦手とします。仕事には一生懸命取り組み、やる気も持ち合わせているにもかかわらず、他の人が当たり前にできることができない状態です。
遅刻を例に考えてみましょう。
発達障害の人は「定刻に到着するために必要な段取りができない」「体内時計を自覚し行動につなげられない」などを原因として遅刻してしまいます。サボる人の「本当はできるのにやらない状態」とは原因が異なる点を理解しましょう。
3-2.発達障害は「いつの間にかできるようになった」が少ない
「何度言ってもわからない=発達障害」と短絡的に結びつけるのも危険でしょう。
発達障害の人が仕事に習熟するためには継続的・反復的な指導が必要です。発達障害は「周りを見て学ぶ」「空気を読み、工夫する」などの工程が苦手なためです。
しかし発達障害ではない人は周りを見ながらいつのまにかできるようになったり、効率的に進めたいので工夫したりする行動が自然と見られます。
発達障害かサボりかを判断する際は「いつの間にかできるようになったこと」があるかどうかチェックしてください。
3-3.発達障害には作為性がない
発達障害の人は「わざと」「手を抜いて」できないふりをしているのではありません。一生懸命に取り組んでも、ほかの人が当たり前にできることが不得手です。
一方、サボっている人は作為的に行動します。自分が楽をするために、状況を自分に有利にするためにわざと行動している様子が見られるかどうかをチェックしてみてください。
極端な作為性や相手を操作しようとする意図がある場合は「パーソナリティ障害」かもしれません。
パーソナリティ障害は精神疾患の一種で、頑固さ・柔軟性の欠如など発達障害と似た症状を呈します。
4.発達障害に特徴的な行動が見られる従業員への対処法
発達障害の傾向がある従業員に対しては、健常発達者と同じように指示を与えてもうまくいかない場合がほとんどです。発達障害には、特性を押さえたかかわりが必要です。
発達障害がある人に適した対応をまとめました。新しいスタッフに活用できる手法もあるため、積極的に取り入れてみてください。
4-1.指示の出し方や業務手順を明確にする
発達障害(疑いを含む)は、建前や曖昧さが苦手です。
「これ、やっておいて」「いい感じに仕上げてね」などの具体性に欠ける指示では混乱してしまいます。
発達障害の従業員に指示を出す際は、作業の完了に必要な情報を具体的に整理して伝えましょう。
◎ 指示の具体化は5W1Hを参考に
- ・何を(What)
- ・いつまでに(When)
- ・どのような手順で(How)
- ・相談者・報告者は誰で(Who)
- ・作業場所はどこで(Where)
- ・なぜ行うのか(Why)
繰り返し発生するタスクなら、マニュアル化するのもおすすめです。
視覚的に情報が整理されたマニュアルは発達障害者だけでなく、新しく入った従業員の育成にも役立ちます。
4-2.特性に向いている業務にアサインする
発達障害のなかには、得意・不得意が顕著にあらわれる人がいます。
好きで得意な分野は健常発達者以上の知識と習熟を見せるケースも珍しくありません。特性を踏まえた分野へのアサインを心掛けてください。
ひとつのことに没頭し、驚くほどの集中力を発揮するのも発達障害の特性です。
海外ではソフトウェアやプログラミング、デバックなどのIT分野で力を発揮する発達障害者も大勢います。
日本の企業で発達障害者の活用に成功した事例を、後ほど紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【発達障害タイプ別】向いてる仕事と長く働くコツ、悩みの解決方法
4-3.産業医・専門家に相談する
発達障害かどうかの見極めは、医師ですら迷う場合もある繊細な診断です。まして、一般の私たちは発達障害かどうかの判断はできません。
「発達障害ではと不安を感じる従業員がいる」「対処に困るスタッフがいる」など手をこまねくケースに直面したら、産業医や専門家に相談し対応を仰ぎましょう。
産業医がいない場合は、地域産業保健センター(地さんぽ)が利用できます。地さんぽは小規模事業者に対して産業保健サービスを提供している機関で、無料で相談可能です。
5.誰もが働きやすい職場づくりに成功した3つの事例
発達障害者や精神疾患がある人の得意を活かした職場がつくれたら、どんなに素晴らしいでしょう。
得意分野に突出した能力を見せる発達障害者は、向いている業務に配属できれば大活躍してくれるかもしれません。
「現実的に発達障害者の活用は可能なのか」との不安を持つ人に向けて、3つの成功事例を紹介します。
5-1.トップダウンで障害者が働きやすい店舗をつくった「良品計画」
「無印良品」の専門店事業で知られる良品計画は、店舗業務で発達障害者を活用しています。発達障害者の雇用を推進するためにトップダウンでプロジェクトを進めました。
良品計画が、接客も必要な店舗業務で発達障害者を活用できるポイントは2つあります。
- 5-1-1.モデル店舗には若いスタッフを配置
先入観や固定観点が少ない若いスタッフを多数配置した「ハートフルモデル店舗」を設置し、発達障害者を配属。相互理解や業務が円滑に進み、発達障害者への理解が前向きになる。
- 5-1-2.特性に合わせ柔軟に業務アサイン
得意・不得意を踏まえてアサイン。あとから苦手が判明してもすぐに配置を変え、働きやすい環境を柔軟にととのえる。
発達障害者の特性把握には、採用時に提出してもらう支援機関発行のプロフィール表が役立ちます。
5-2.職場と本人が連携し向いてる仕事を探した「株式会社西村製作所」
株式会社西村製作所は、障害があってもできる仕事・働き方の発見で高く評価されています。できる仕事は、つぎの2ステップで発見しました。
- 5-2-1.部門のさまざまな仕事を体験してもらう
ひとつの仕事ができなくても、会社には多くの別の業務がある。さまざまな業務を試し、適性がある仕事を地道に見つけた。
- 5-2-2.成功体験を大切にする
できなかった仕事ができるようになる成功体験を蓄積できるよう、周囲が工夫して働きかける。
成功体験がつぎの新規業務に挑戦する原動力になり、実習生の指導役にまでなった。
「一度に指示せず、段階を踏む」「メモを取る時間的余裕を持つ」などは、きょうから取り入れられそうな工夫です。
5-3.障害者への配慮がほかの社員にも好影響を及ぼした「ホテル日航奈良」
究極の接客業ともいえる高級ホテルでも、発達障害者が活躍しています。
ホテル日航奈良では障害者へのサポートが、結果的にほかの従業員にも良い影響を及ぼす好循環が生まれています。成功のポイントはつぎの2つです。
- 5-3-1.得意な業務に特化し仕事を任せる
障害者も健常者も、得意を活かせる部門にアサインする。それぞれが得意分野で力を発揮するため、仕事全体のクオリティがアップした。
- 5-3-2.チーム制を取り入れ情報共有を密にする
相互理解を深めるため、作業はチームを組んでおこなう。従業員がお互いをよく理解できるようになり、仕事の連携も円滑に進むようになった。
チーム制によって障害者を含む従業員同士の思いやりが深まり、休みの調整が速やかに進むようになりました。早く休息できるようになったため、体調不良者が減少したそうです。
6.成功事例にみる発達障害者も活躍できる職場をつくるポイント
ホテル日航奈良の事例では、発達障害者への配慮が、巡りめぐってほかの従業員や会社全体のメリットにつながっています。
発達障害者が働きやすい職場をつくる取り組みは、全社に利益をもたらすきっかけになるかもしれません。
では発達障害者が活躍できる職場は、どのような工夫でうまれるのでしょうか。心掛けたいポイントを3つ、紹介します。
6-1.従業員の相互理解を大切にする
発達障害といっても、特性は一人ひとり異なります。
得意・不得意や個性を踏まえたアサインには、彼らを理解しようと歩み寄る姿勢が大切です。
良品計画では、配属後に新たな不得意が判明するケースもあるとわかります。従業員が多くなり把握しきれないと感じたら、ホテル日航奈良が採用したチーム制が学びになります。
事業の発展は、従業員一人ひとりの活躍によって生まれます。
障害も一つの個性ととらえ、発達障害者を含む従業員全員の相互理解を大切にする姿勢を、ぜひともトップダウンで示しましょう。
6-2.一人ひとりの個性・特性を生かす方法を考える
紹介した成功事例はどれも「発達障害者=仕事ができない」とは考えませんでした。
誰にでもある得意・不得意のあらわれ方が少し顕著なだけだと考え、適材適所にアサインし活用に成功しています。
仕事に人をあてず、人に仕事をあてる考え方は、いま注目のジョブ型雇用に通じます。
得意を最大に活かせる環境を与え、成果の最大化を狙えます。
発達障害者の活躍は、企業の人事・雇用制度の変革をも生み出すかもしれません。
6-3.「見える化」「言語化」を心掛ける
発達障害者は曖昧表現が苦手です。
発達障害がある人を活用するなら指示を具体的に言語化しなければなりません。指示内容を書いたメモを渡すのも効果的です。
しかし曖昧な指示がミスやトラブルの元凶になるのは、発達障害者に限った話ではないはずです。
新しく配属された人や新入社員は社内慣行がわからず、指示理解に苦労してはいないでしょうか。
発達障害者への配慮をきっかけに、全社で指示や業務内容の具体化・見える化を取り入れてみましょう。
7.発達障害者の就労スキル向上にテクノロジーの力を
発達障害者の活躍には、当人の就労スキル向上も重要です。
発達障害者は業務手順の理解や習得に健常発達者より時間がかかりやすいため、一般従業員と同じ研修だけでは学習の場が足りないおそれがあります。
とはいえ発達障害者のサポートに十分な人手を回せる企業は、多くはないでしょう。そこでテクノロジーを使い、人手をかけずに発達障害者の就労スキルを向上させる方法を紹介します。
7-1.VRをつかった就労支援「Realize VR」
Realize VRはVRでSST(ソーシャルスキルトレーニング)ができる最新ツールです。
SSTとは社会生活に必要なスキルを養成する訓練で、発達障害者や精神疾患がある人、また対人スキルに課題を感じる人に対しておこなわれます。
ロールプレイやディスカッションなどが一般的におこなわれるトレーニングメニューです。
VRを活用したRealize VRでも、ロールプレイ型で訓練できます。
現実と区別がつかないほどリアルな映像がシーンが収録されており、練習した内容を実生活で活かしやすい点がメリットです。
関連記事:社会に出るための技能訓練!障害を持つ大人向けのソーシャルスキルトレーニング
7-2.Realize VRがおすすめの理由
対人関係に苦手意識を持ちやすい発達障害者の中には、訓練とはいえ人と接することに抵抗心をあらわす人もいます。
「失敗する様子を見られたくない」「知らない人と気軽に話せない」など、発達障害特有の思いがあるのが理由です。
ところがRealize VRはVRカメラ型のツールであり、目の前で繰り広げられるシーンはあくまで映像です。
本当に人を相手にしているわけではないため、コミュニケーションに課題を感じる人におすすめできます。
8.まとめ
「仕事で不注意によるミスが多い」「社交辞令がわからず、取引先に連れて行けない」など、困ったと感じる場面が多い従業員は発達障害があるかもしれません。
しかし行動に作為性が感じられる場合は、サボっているだけの可能性もあります。
日ごろから従業員の言動をよく観察し、必要に応じて専門家に相談し適切な対応を仰ぐようにしましょう。
凸凹と表現されることも多い発達障害の特性は、活かし方を見つけられれば心強い戦力になります。
記事で紹介した事例を参考に、一人ひとりの得意を活かせる場所を見つけてあげてください。
就労スキルの向上には、少ない人手で運用できるツールの利用がおすすめです。まずはRealize VRを試し、クオリティと即時性を確かめてみてください。