復職支援プログラムとは?5つのステップとメニュー例│策定時の注意点も
公開日: カテゴリー: SST
10社に1社は「こころの病気で休職・退職した従業員がいる」時代、労働者のメンタルヘルスへの対応は事業所の規模にかかわらず重要な経営課題となっています。
一方で人手不足の事業所にとって、労働者の休職は悩ましい問題ではないでしょうか。スキルを持つ労働者ならなおのこと、それなりのコストをかけてでも復職してほしいと考える経営者・人事担当者も多いと考えられます。
復職支援プログラムは、メンタル不調で休職した労働者の復職を円滑に進める手法です。
本記事では復職支援プログラムの考え方や具体的な策定方法を、わかりやすく解説しました。課題発見のためのチェックリストや、職場全体の理解と協力の必要性もまとめています。
御社の大切な人材を復帰させるヒントが満載です。最後までご覧ください。
1.復職支援プログラムとは
復職支援プログラムとは、うつ病や適応障害など精神疾患のために休職した労働者がスムーズに職場復帰できるよう支援する手法です。
「リワーク」「職場復帰支援プログラム」とも呼ばれます。休職者本人と職場(企業)、医療機関の3者が連携し、適切なプランを策定し進めます。
こころの病気を理由に休職する人は全国的に少なくなく、社会的に対策が重視されています。
厚生労働省が毎年取りまとめている「労働安全衛生調査」によると、メンタルヘルスの不調により連続して1か月以上休業(あるいは退職)した労働者がいた事業所は2021年に10.1%にのぼることがわかっています。またこの数値は年々増加しています。
(参照:令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況 |厚生労働省 )
復職支援プログラムは休職者が規則正しい生活を送り、自分の力で通勤・就労できるようトレーニングを行います。復職後に病気が再発しないよう、休職にいたった原因の自己分析や、行動を自分で制御するための心理療法も実施します。
2.復職支援プログラムの有用性
現実的な問題として、復職支援プログラムには人的・時間的コストがかかります。人手不足に悩む中小企業はとりわけ「コストをかけるだけの価値があるのか」と心配になるかもしれません。
興味深い論文を紹介しましょう。筑波大学医学医療系エムディ労働衛生コンサルタント・道喜将太郎ほかによる「休業者に対する復職支援プログラムの有用性:システマティックレビュー」(2018)です。
同レビューでは世界中の復職支援に関する調査をリサーチし、復職支援プログラムの有用性を評価しています。リサーチの結果、休業者に対する復職支援プログラムにはプラスの相関が強い傾向にあることがわかりました。
別の調査では、メンタルヘルス不調で休職した労働者のうち復職支援プログラムや医療機関との連携を利用した人のほうが「再休職のリスクが低い」「復職後の就労継続性が良い」傾向にあるともされています。
(参考:気分障害による休職者に対する復職支援プログラムの有用性|関西福祉科学大学リポジトリ)
科学的なエビデンスにもとづいた復帰支援の実行は、休職者・職場いずれにもポジティブな価値をもたらすと期待できることが、調査からわかるのではないでしょうか。
3.復職支援プログラムの5ステップ
復職支援プログラムは、スタートから復帰・フォローアップまで5つのステップに分けられます。ステップごとの目的とやるべき内容を理解し、円滑な遂行に向けて準備を進めましょう。
(参照:心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き|厚生労働省)
STEP1.休業スタートから休業中のケア
主治医が病気やメンタルヘルス不調などを理由に休業すべきと診断した場合、診断書(病気休業診断書)の提出をもって休業が始まります。
診断書を受け取った管理監督者(事業所)は、労働者が安心して休業し療養に専念できるよう以下の手配・支援を行ってください。
- ・経済的な保障の情報提供(休業手当、傷病手当、傷病手当金など)
- ・不安や悩みを相談できる専門機関の紹介
- ・公的・民間の職場復帰支援サービスの紹介
- ・休業の最長(保障)期間の明確な提示 など
事務手続きを進めながら、休養中のサポートと復帰に向けた支援を約束し安心させることが大切です。
STEP2.主治医による職場復帰可能の判断
休職者が十分な療養を済ませ「職場復帰したい」との意思が出たときは、主治医の診断書を提出してもらいます。診断書が、主治医による「職場復帰可能との判断」の根拠になります。
ただし主治医は休職者が職場復帰し、即戦力として活躍できる状態を確約しているわけではない点に注意が必要です。
主治医はあくまで通勤・就労を含む日常生活に大きな困難がない程度まで回復したと判断するだけで、業務遂行能力の回復を保証してはいません。
復帰後の職務・責務は、専門家や産業医など第三者の意見もききながら慎重に決定します。この点は、後ほど詳しく解説します。あわせてご覧ください。
STEP3.復職の可否の判断と復職支援プランの作成
関係者からの情報収集と評価を経て、職場復帰ができるかを判断します。職場復帰が可能とされた場合は、復帰に向けた具体的なプラン策定に入りましょう。
復職可否の判断と、具体的な復職支援プラン策定時の注意点はつぎのとおりです。
◎復職可否の判断時の注意点
- ・判断に必要な情報を関係各所から十分に収集する
- ・情報をもとに、復職の可否を総合的に検討する
- ・復帰後の職場環境や業務との適合性、上司・同僚などから得られる支援も考慮する
◎復職支援プラン策定の注意点
- ・就業上必要となる配慮を具体的にまとめる
- ・時短勤務や配置転換など、はたらきやすい環境を整備できないか考える
- ・継続的な治療や医療的支援をうけられる環境を整える
STEP4.職場復帰の最終決定
復職可否の判断と復職支援プランがまとまったら、最終的な職場復帰の決定となります。
「休職者本人の意思・状態」「医療的見地からの意見」「事業者による就労上の配慮」の3つの観点を考慮し、職場復帰を決定しましょう。
また復帰後のフォローアップ体制構築に向けて、本人や職場の課題・必要な配慮などが関係者同士で共有されやすい仕組みも整えます。
STEP5.職場復帰後のフォローアップ
休職者が職場に復帰すると、フォローアップがスタートします。フォローアップはつぎの4つのポイントに留意し支援します。
- 1.不調が再発していないか/新しい不調が発生していないか
- 2.勤務状況や業務の遂行の程度は想定通りか
- 3.策定した復職支援プログラムは円滑に進んでいるか
- 4.通院・治療の進行は順調か、主治医の見解はどうなっているか
労働者の様子や管理監督者の評価、主治医の見解などを総合的に踏まえ、必要な場合は復職支援プログラムの変更・改善も行います。また労働者がはたらきやすいよう、職場環境の改善にも努めましょう。
こころの病気をかかえる人が働きやすいよう環境を整えることは、潜在的なメンタルヘルス不調者にとっての労働環境改善にもつながります。全員が気持ち良く働けるよう、またサポートする周囲に過度な負担が偏らないよう、広い目で労働環境を整えるチャンスとしましょう。
3.復職支援プログラムの策定手順
はじめて復職支援プログラムを策定する事業者は、何から・どうやって手をつければ良いのか迷うかもしれません。
この章では独立行政法人労働者健康安全機構が提示するモデルプランを参考に、復職支援プログラムの策定手順を解説します。
困ったときに相談できる専門機関も掲載しました。自社で復職支援プログラムを策定する道筋としてください。
3-1.自社の課題を整理する
はじめに、復職支援プログラムの策定にあたって自社が解決すべき課題項目をピックアップします。課題を整理する過程で、活用できる自社のリソースに気づけるケースもあります。
以下のチェックリストに取り組んでみてください。「はい」にチェックがつかなかった項目が自社の課題であり、解決が必要な項目です
(参考:職場復帰支援プログラムの作成支援方法例|独立行政法人労働者健康安全機構)
3-2.支援担当者を選定する
休職者の復帰支援を担当する人材は決まっているでしょうか。もし決まっていなければ、この機会にメンタルヘルス担当者を選任しましょう。
すでに復帰支援担当がいる場合も、今回の休職者を支援するのにさらにふさわしい人物・カギになる人物がいないか検討します。
職場復帰は、誰か一人だけの努力で成し遂げられるものではありません。「復帰しても職場に馴染めず再休職になった」「サポートの負担を求められたスタッフが新たな休職者となった」などの事態を避けるためにも、職場全体で支えあう体制構築が大切です。
復職支援プログラムに関与する人材と役割は、以下のとおりです。
- ・経営者層:職場復帰の最終判断、決定
- ・産業医:医療的見地から必要な助言・指導
- ・人事労務・メンタルヘルス推進担当者:配置転換、異動など人事労務全般の支援
- ・産業保健スタッフ(保健師):復帰者と管理監督者のサポート
- ・管理監督者:職場で復帰者の業務を監督・支援
なお、産業医がいない場合は労動基準監督署の所管ごとに配置されている「地域産業保健センター」の産業医が利用できます。
3-3.5つのステップにしたがってプランを策定する
課題の抽出と関係するスタッフの専任が終わったら、先に紹介した「職支援プログラムの5ステップ」にしたがってプランを策定します。プログラムは就業規則に抵触しないよう、また慣行や実態からかけはなれたものにならないよう注意し策定してください。
休職からの復職は労働者本人に想定以上のストレスを与えます。
「無理をさせない」「急激に負担を増やさない」点にも配慮が大切です。時短勤務や隔日出勤など柔軟な勤務体系を取り入れ、生活リズムの確立と業務遂行能力の養成を優先させるプログラムを考案してください。
3-4.復職支援プログラムに関する相談機関
復職支援プログラムの策定に困難を感じたら、遠慮なく専門家に相談しましょう。以下は復職支援プログラムをはじめとする、事業者からの相談を受け付けている機関です。
<無料で相談できる公的機関>
- ・総合労働相談コーナー:あらゆる労働相談が可能
- ・産業保健総合支援センター(さんぽセンター):メンタルヘルス対策、人事労務の相談など
- ・地域産業保健センター(地さんぽ):小規模事業者からの労働安全相談 など
<有料で相談できる民間機関>
- ・登録相談機関:国の登録基準を満たしている専門機関一覧
また厚生労働省サイトでは、e-ラーニングや動画で学べる復職支援教材が公開されています。「相談機関に出向くほどではない気がする」と感じる事業者は、まずこちらのサイトをチェックしてみるのがおすすめです。
職場復帰支援に役立つコンテンツ(事業者の方・部下を持つ方へ)|厚生労働省
4.復職支援プログラムのメニュー例
復職支援プログラムの概要が理解できても、具体的なメニューを一から考案するのは簡単ではありません。以下に復職支援プログラムの一例を示します。自社にあったプログラムを策定するヒントとしてご活用ください。
メニュー例①おためし出勤
<やりかた>本格復帰の前に、終日出社を1~2日試す。⇒ 疲労の蓄積度や継続出社の可否を判断
<注意点>おためし出勤時は業務には当たらず、身の回りの整理や心身の準備に充てる。
メニュー例②期間を区切っての時短勤務
<やりかた>時間、6時間、8時間と徐々に勤務時間を長くする。
<注意点>上司や産業医と面談を組み、状況を逐次把握する。
メニュー例③生活行動の記録
<やりかた>復帰前の生活リズムを記録し、職場面談に持参する。
<注意点>生活リズムを把握し、勤務に必要な体力・気力の充実度の判断材料とする。
メニュー例④ソーシャルスキルトレーニング
<やりかた>職場でよくあるシーンをロールプレイし、対応能力を養成する。
<注意点>同僚との雑談、上司への相談など気軽に取り組めるテーマから始める。
メニュー例は以上です。
復職支援プログラムのメニューに正解はありません。職場と休職者に必要と思われるメニューを具現化しましょう。産業医や保健師など、専門家からの助言も積極的に参考にします。
関連記事:【年代別】ソーシャルスキルトレーニング(SST)の例8選|手順も解説
5.復職支援プログラムの注意点
復職支援プログラムの作成に当たって、気をつけたい点を解説します。ここで述べる3つの点に留意し、自社にあったプログラムを完成させましょう。
5-1.「主治医の職場復帰可能判断=業務遂行能力回復」とは限らない
復職には主治医が職場復帰可能と判断した診断書が必要です。ただし診断書があるからといって、滞りなく業務を遂行できるとは限らない点に注意しましょう。
医師によって判断基準は異なりますが、おおむね日常生活で困る場面が少なければ復帰可能と判断されます。日常生活で困らないとは、以下の例が該当します。
- ・就労に十分な意欲がある
- ・通勤時間帯に一人で安全に通勤できる
- ・提示の就労が継続して可能である
- ・就労による疲労が翌日までに十分回復する
- ・適切な睡眠覚醒リズムが整っており、昼間に眠気がない など
復帰してすぐに即戦力としての活躍を期待しないほうが、休職者・職場の双方にとって安全でしょう。少しずつ慣れていけるよう、スローペースでの復帰プログラムを考案してください。
5-2.職場全体の理解と連携を醸成する
復職支援には休職者と直接の関係者以外にも、多くの人のサポートが必要です。かかわる人すべての理解と連携がないと、別の困りごとに発展するおそれがある点を押さえます。
以下は、休職者の復帰に伴い起きやすいトラブルの例です。
- ・特定のスタッフに復職者のサポート業務が偏り負担となる
- ・時短勤務やおためし出勤をする復帰者に奇異の目が向けられる
- ・復帰者が「自分は特別扱いされている」と感じ、居心地が悪くなる
- ・休職の原因となった上司のもとに再配属され、再休職となる
- ・メンタルヘルスに関する心無い雑言が飛び交い、雰囲気が悪くなる
人事労務、あるいはメンタルヘルス担当者は職場全体の理解と連携醸成にも配慮しなければなりません。職場全体の業務バランスや雰囲気をチェックし、思いやりを持ちあえる環境を整えましょう。
5-3.復職後も丁寧なフォローアップを実施する
復職後のフォローアップは、復帰の成否を決めるといっても過言ではありません。丁寧にきめ細かくフォローできる計画を立てておきましょう。
とくに、復職直後が要注意です。休職していた本人も復帰にあたって張り切り、力が入って頑張りすぎてしまうケースがあるためです。本人のキャパシティを超えるといずれ無理がきて、再びメンタルヘルス不調に陥るおそれがあります。
復帰直後から「無理していないか」「今のペースで大丈夫そうか」、関係各所が連携して丁寧に見守りましょう。本人の気持ちを汲み取るために、上長との定期的な面談や産業医の診察を設ける取り組みも重要です。
6.テクノロジーで復職支援をサポート「Realize VR」
「既存人材の活用が喫緊のテーマだ」と感じる中小事業所は多いのではないでしょうか。休職している人材を再び活躍しやすくする復職支援プログラムは、中小事業所にとって心強い手法となりえます。
一方で「人手不足だから、復帰支援プログラムが策定できない」ジレンマもあるかもしれません。
人手が欲しいが、人手の確保にコストをかけられない事業所におすすめのツールを紹介します。
6-1.VRによる復職支援「Realize VR」
復職支援に、最新テクノロジーを導入してみてはいかがでしょうか。VR(Virtual Reality・仮想現実)を使えば、ゴーグルが復職支援ツールとなってくれます。
「Realize VR」は中小企業の就労課題を解決します。専用のゴーグルには職場でよくある場面が150以上収録されており、実戦に限りなく近い体験を提供します。実際の復帰の前にロールプレイ感覚で職場で必要とされる対応をトレーニングできるため、休職者にブランクを感じさせない活躍を可能にします。
またトレーニングの成果は専用サイトで可視化します。習熟度の把握や強み・苦手の発見ができ、より効果的なサポートにつなげられます。
復職支援プログラムに人的・時間的コストをかけたくない事業所ほど、まずは試して見てください。リアリティあふれる疑似体験に驚き、期待をもっていただけるはずです。
7.まとめ
復職支援プログラムは、病気やメンタル不調で休職した人を円滑に職場復帰させるための手法です。休職者本人と職場、医療機関が連携し、無理なく復帰・定着ができるよう入念に計画を立てて進めます。
こころの病気で休職する人が増加傾向にある近年、既存人材の活用という視点でも力をいれていきたい取り組みです。
一方で復帰支援プログラムの策定には、人的にも時間的にも十分なリソースを用意しなければなりません。「人手もコストもかけられない」と悩む中小事業所にとっては悩ましい点でしょう。
もし効率の良い復帰支援ツールをお探しなら「Realize VR」をおためしください。VRゴーグルが、現実味があり再現しやすいコミュニケーションスキルの養成をサポートします。