逆SSTとは|発達障害者と健常者の相互理解をつくるトレーニング

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公開日:  カテゴリー: SST

目新しいSSTも、繰り返すうちにマンネリは避けられません。常に新しいSSTを探している特別支援の現場も多いのではないでしょうか。

あるいは指導者が発達障害者支援に熟練するなかで一般的なSSTに疑問を抱き、別のアプローチができるSSTを探す場合もあるかもしれません。

逆SSTは、まさに一般的なSSTが内包する課題を解決すべく生まれた手法です。

本記事では逆SSTの特徴や具体的なやり方、実施する際の注意点などを網羅的に解説します。逆SSTの考え方やSST・逆SSTの課題もまとめました。

逆SSTが気になる人、また一般のSSTに疑問を感じている人は、ぜひ最後までチェックしてみてください。きっと明日からやるべきトレーニングに、光が見出せるでしょう。

逆SSTとは

「逆SST」とは

逆SST(SST-R・Social Skill Training-Reverse)は発達障害者特有の行動・考え方を、周りが理解し一緒に考えようとする取り組みです。一般財団法人発達支援研究所が提唱しています。

一般のSSTと逆SSTを比較してみましょう。

一般のSST 逆SST
対象者 発達障害者 発達障害者の周りにいる人
目的
場に応じた振る舞いやふさわしい言動を教え、できるようにさせる 発達障害者に特有の行動を理解する
より適したサポートにつながるヒントを得る

一般のSSTが発達障害者を対象に場面最適な振る舞いを教えるのに対し、逆SSTは発達障害者の周囲にいる人に対し理解を促すために行われます。

逆SSTが始まった背景にある通常SSTの課題と限界

逆SSTが始まった背景にある通常SSTの課題と限界

発達障害者の周りにいる人を対象とする逆SSTは、SSTが抱える課題を解決するために考えられた手法です。

一般のSSTが内包する課題と、逆SSTが始まった背景を解説します。

一般的なSSTの目的と手法

一般的なSSTは、社会適応に課題を持つ人(発達障害者・知的障害者など)を対象としています。目的としては「健常者が多数派を占める社会に適応できるようにする」ために行われます。

SSTの起源は、疾患により長いあいだ社会とのつながりが断たれた患者に対し元の社会生活を送れるようにするトレーニングにあるためです。

SSTが発達障害者の社会化トレーニングとして利用されるようになった後も、もともとの考え方である「健常者社会に適応させる」考え方は保持され続けています。

関連記事:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?実施内容や効果、方法を解説

一般的なSSTの課題

一般的なSSTは社会生活に困難を感じる人に向けて、多数派の社会に合わせられるようトレーニングします。

ここでは「発達障害者が定型からズレている」という考え方が前提にあることを理解しておきましょう。

しかし発達障害者の立場から見ればどうでしょうか。

本人は定型からズレたくて、ズレているわけではありません。本心と異なる行動・振る舞いを強いられている可能性もあります。

「こんな行動はしたくないのに」と、違和感を抱く人もいるかもしれません。

ここに、一般的なSSTの課題があります。

一般的なSSTは発達障害者の違和感を脇に置き、定型的に「普通」とされる振る舞いを一方的に教えるため、発達障害者とサポートする人との理解が深まりません。また形ばかりの訓練になるおそれもあります。

発達障害者と定型発達者の相互理解を促す「逆SST」

一般的なSSTの課題を解決し、発達障害者とサポートする人との相互理解を重視したのが逆SSTです。

逆SSTでは発達障害者とサポートする人とが「まずお互いをしっかり理解すること」「認識のズレに気付き、思いやりある関係性を築くこと」を大切にしています。

本当に幸福な関係を築くためには、お互いに理解しあう努力をしなければなりません。

発達障害者を健常者の社会に適応させる方法ばかりを追求するのではなく、相互理解の上でよりよいサポートの方法を探るのが逆SSTのアプローチ法です。

逆SSTを実施する際の注意点

逆SSTを実施する際の注意点

逆SSTの考え方に共感し、やってみたいと思った人もいるかもしれません。逆SSTを実際にやる前に、押さえておきたい注意点を3つ解説します。

  1. ①「理解しようとする」姿勢を大切にする
  2. ②相手の話を否定しない、遮らない
  3. ③「正解はない」と心得る

逆SSTの理念に対する理解を深め、効果を高めるために大切なポイントです。しっかりチェックしてみてください。

①「理解しようとする」姿勢を大切にする

逆SSTでは、指導の実施者が発達障害者に正しいやり方・振る舞いを教えようとはしません。もっとも大切にすべきは、理解しようとする姿勢だと考えます。

私たちはつい、「世間一般では」「常識では」「普通は」と考えがちです。しかし「普通」の概念も、よく見ると一人ひとり違ってはいないでしょうか。

まして独自の発達過程を持つ発達障害者は、健常者には思いつかない考えを持っていて当然です。

健常者が多数を占める社会の常識を押し付けるのではなく、考え方を知り理解しようとする努力を忘れないでください。

②相手の話を否定しない、遮らない

相互理解は簡単ではありません。逆SSTでも不満や不快、理解しがたい場面もあるでしょう。

しかし、分かり合えないからといって「相手を否定する」「話を遮る」などの反応をしないように注意します。

否定されると、話し手は傷つき話す気を失います。話を遮られてばかりでは「自分の話には価値がないのか」と失望し、意欲が減退してしまいます。

そもそも、否定や遮断はコミュニケーションの在り方から見てもマナー違反です。相互理解を重視する逆SSTの場ではなおのこと、相手の話にじっくり耳を傾ける姿勢を大切にしましょう。

③「正解はない」と心得る

健常者・発達障害者にかかわらず考え方や価値観、行動特性は一人ひとり違います。同じ一人の人間でも、シチュエーションによって振る舞いが変わることも珍しくありません。

したがって、あらゆる場面で絶対的な正解となる考え方・行動はないと心得ましょう。

一般的なSSTも、社会通念に照らし合わせたときに「良し」とされる振る舞いを教えているだけではないでしょうか。場面や人間関係が異なれば、別の振る舞いがベターとなるケースも多いはずです。

逆SSTで想定外の言動が登場しても「ありえない!」と拒絶してはいけません。「そんな考え方もあるよね」「なるほど、そう感じるんだね」と、まずは受け止めるよう心がけてください。

逆SSTのやり方

逆SSTのやり方

いよいよ、逆SSTのやり方を紹介します。

逆SSTは基本的に、「障害を持つ当事者が話題を提供し、課題を与える」「与えられた課題をサポートする健常者が考え、答えを出す」の2段階で構成されています。

逆SSTに必要な準備と具体的な手順を解説します。

準備

逆SSTには、2つの立場の人が必要です。

<1>語り手となってくれる発達障害当事者

<2>聞き手となる健常者

発達障害者には「自分の行動を言葉で客観的に語る」役割が与えられます。自身の行動を振り返り言語化できるだけの年齢の人を選定しましょう。

中高生以上が目安になりますが、大人のサポート付きで言語化できるなら小学校高学年程度からも可能です。

進行役は事前に、語り手とテーマやストーリーを相談しておきましょう。

聞き手となる健常者は「発達障害者を日ごろからサポートしている人」「クラスや職場に発達障害者がいる人」などが該当します。

そのほか、椅子やホワイトボードなど会場の準備も行います。

逆SSTの進行手順

逆SSTは、つぎの5つのステップで進行します。

  1. 1.語り手がテーマに合わせて抽出した自身の行動の背景(ストーリー)を語る

  2. 2.語り手が聞き手に行動への理解を促す質問をする(理由を考える、など)

  3. 3.聞き手は質問や対話を通じ、語り手の行動を深く理解する

  4. 4.語り手・聞き手それぞれが「行動の理由」を発表する

  5. 5.聞き手は語り手をより理解するアプローチを相談して考え、全員で共有する

1で語り手が話す行動は「健常者はあまりやらないこと」「個性的な行動」をテーマにしましょう。以下にテーマの一例を示します。

  • *話しかけられたのに無視した
    (本意:自分が話しかけられていると気付いていない)
  • 他人の行動に名前をつける
    (本意:名前をつけることで相手の行動を理解しようとする)
  • イライラしたときに笑顔になる
    (本意:イライラの衝動を笑顔でおさえようとしている)

簡単には理解できないテーマを与えられたほうが、聞き手は主体的に考え理解しようとしやすいためです。

また3の対話も大切にしましょう。疑問を素直に伝えると、語り手にとっても周囲の受け止め方を理解する機会になります。

詳しいやり方は一般財団法人発達支援研究所の動画もチェックしてみてください。

逆SSTの可能性と課題

逆SSTの可能性と課題

一般的なSSTが持つ「健常者の社会が基準であり、発達障害者は定型社会に合わせるべき」という考え方がない逆SSTは、ソーシャルスキルトレーニングに新しい視点をもたらしてくれる手法です。

周囲の人が発達障害者を理解する機会にもなり、個性に寄り添ったサポート方法を見い出せるメリットもあります。

一方で、逆SSTも発達障害者と周囲の人のソーシャルスキルトレーニングの一つでしかありません。「逆SSTを行えば相互理解が深まり、よりよい関係性が完成する」と過信しないようにしましょう。

SSTも逆SSTも「やること」が目的化しないように注意してください。大切なのは、実践により成果を得ることです。

さまざまなアプローチを試しながら、課題発見と改善のサイクルを回し、よりよい成果を得られる方法を探り続けていきましょう。

逆SSTを「さまざまなアプローチ」の一つとして、活用してみてください。

最新テクノロジーを使ったSST「Realize VR」

最新テクノロジーを使ったSST「Realize VR」

「さまざまなアプローチを試したいが、人手やアイデアが足りない」場合には、VRを使ったSSTがおすすめです。

療育や特別支援現場の人手不足・アイデア不足を解決する「VRによるSST」を紹介します。

VRを使ったSSTとは

VRとは、Virtual Realityの略で「人工現実感」「仮想現実」と訳されます。専用のゴーグルを装着し、360°すべてを仮想空間にし限りなく現実に近い経験を感じられるテクノロジーです。

近年、SSTにもVRの導入が進んでいます。さまざまな場面をSST教材として用意しておき、VRゴーグルを通じて実体験に近いSSTを提供します。

SSTにVRを導入するメリット

VRを導入したSSTでは、つぎの4つのメリットが得られます。

  • SSTの準備にかかる負担が軽減できる
  • バリエーション豊富なSSTが簡単に用意できる
  • 少ない人手でSSTを実践できる
  • 散漫なタイプも没入しやすく、SSTに対する集中度が上がる

VRを使ったSSTは、ゴーグルを用意すれば準備完了です。従来のSSTのように会場や椅子、ホワイトボード、教材などの準備が不要になり、少ない人手でも運営できます。

またSST開始後は参加者が一人で進められます。視界すべてが仮想空間に覆われるVRは没入度が高く、散漫・多動なタイプでも入り込みやすい点が特徴です。

スタッフが参加者にずっと付き添う必要がない点も、VRならではのメリットです。

VRによるSSTが気になったら、ぜひ「Realize VR」をお試しください。実生活を題材にした300以上の場面が収録されており、どの年代へのSSTにも活用できます。

「Realize VR」お問い合わせ

まとめ

まとめ

一般的なSSTは、健常者の社会に発達障害者を適応させるために実施します。しかし「発達障害者に無理を強いていないか」「発達障害者の本心を無視していないか」などの懸念があり、その解消を目指して「逆SST」が誕生しました。

逆SSTは同じ社会に暮らす者同士として、発達障害者と健常者の相互理解と歩み寄りを大切にしたアプローチです。

これまでのSSTとは異なる視点からトレーニングをしてみたいと考える人は、ぜひチャレンジしてみてください。

新しいトレーニング手法の導入に当たり、現場の人手不足や負担増に課題があれば負担を軽減できる手法も検討してみましょう。VRを使ったSST「Realize VR」なら、手軽にバリエーション豊富なSSTを提供できます。

まずはRealize VRにお気軽にお問い合わせください。

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