福祉的就労の働き方やメリット、事業所選びの注意点|一般就労との違いまで

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公開日:  カテゴリー: SST

「障害があり、一般企業で健常者と同じように働くのは難しい」

「気分に波があり、毎日同じペースでは働けない」

そのような悩みを抱えてはいても、生活のためには収入(就労)が必要です。

福祉的就労は、一般的な働き方はできないが、働かなければならないジレンマを解決します。

今回は福祉的就労の全貌を解説します。福祉的就労と一般就労の違い、福祉的就労の実態もまとめました。また失敗しない福祉的就労事業所の選び方も紹介します。

経済的自立に向けた第一歩として、福祉的就労にチャレンジしたい人の背中を押す記事です。ぜひ最後までご覧ください。

1.福祉的就労とは

福祉的就労とは福祉的就労は、障害があるゆえに一般的な就労が難しい人に、働く機会を提供する福祉サービスです。

特徴は、障害の症状や程度を考慮した働き方を選択しやすい点です。気持ちの浮き沈みや体調にあわせ、柔軟に就労しながら自立を目指せます。

福祉的就労を利用できる障害を、以下にまとめました。

分類 障害名
身体障害 視覚障害・聴覚障害・肢体不自由・内部障害
精神障害 うつ病・統合失調症・双極性障害(躁うつ病)・てんかん・パニック障害・適応障害 など
発達障害 ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)・LD(学習障害)・知的能力障害(知的発達症)
難病  障害者総合支援法の対象疾病(神経・筋疾患、消化器系疾患、循環器系疾患など。全366疾病)

福祉就労は、所定の福祉サービス事業所で行います。

「就労系の障害福祉サービスの利用」に該当するため、利用には行政の認定が必要です。

2.福祉的就労と一般就労の違い

福祉的就労と一般就労の違い福祉的就労と一般就労の違いは、働き手の立場にあります。

  • ・福祉的就労:障害のある人が福祉サービスを受けながら働く
  • ・一般就労:企業の経営方針に従い、労働力を提供する

福祉的就労は障害のある人が就労により、自立への足がかりをつかむことを目的とします。障害や体調にあわせて仕事量や就労時間を調整しやすく、少ない負担で働くことが可能です。

一般就労では、労働者が企業の利潤追求のために働きます。労働者は自身の判断で、雇用契約・就業規則に定められた勤務時間や仕事内容を変更できません。

福祉的就労は働く人を「(福祉的サービスの)利用者」と呼びます。呼称にも、一般就労との違いが表れます。

3.福祉的就労のメリット

福祉的就労のメリット障害のある人が福祉的就労を選ぶメリットを2つ、解説します。

一般就労にはない利点を踏まえ、どちらの働き方が自分にあうか考えてみましょう。

3-1.自分にあった支援を受けながら働ける

福祉的就労では、就労を開始・継続するためのさまざまな支援を受けられます。労働者であり、福祉サービスの利用者でもあるためです。

「働ける状態になる」「働くために必要なスキル・知識を向上させる」サポートを受けながら、同時に収入を得られます。

<福祉的就労のサポートの例>

  • ・就労に対する不安の軽減
  • ・数時間単位の作業への順応
  • ・スキルトレーニング(コミュニケーション、パソコン など)

3-2.仕事量や働く時間の配慮が受けられる

福祉的就労は、働き方に関する希望を十分考慮してもらえます。

「体調に波があるため、短時間勤務にしてほしい」「できない作業は避けて業務を与えてほしい」などの希望も通りやすいでしょう。

自分のペースで無理なく働ける点が、福祉的就労のメリットです。

4.福祉的就労が可能な場所

福祉的就労が可能な場所福祉的就労が可能な場所は、つぎの3つです。

  1. 1.就労継続支援A型事業所
  2. 2.就労継続支援B型事業所
  3. 3.地域活動センター

それぞれの解説をします。

4-1.就労継続支援A型事業所

就労継続支援A型事業所は、最終的に一般就労を目指す人に向いた施設です。作業を通じて一般就労に必要なスキルを身につけ、自立を支援します。

利用にあたって、利用者と事業所のあいだで雇用契約を結びます。労働時間や就労日数などの働き方が決まり、1日4~5時間の短時間勤務も可能です。

事業所から利用者へは、最低賃金以上の賃金が支払われます。

社会保険・雇用保険の加入も可能です。社会保険の自己負担発生を考慮し、加入は任意とする事業所もあります。

就労継続支援A型事業所では、一般就労を想定した仕事に従事します。接客や事務、清掃、軽作業、パソコンワークなどを提供する事業所が多く見られます。

4-2.就労継続支援B型事業所

就労継続支援B型事業所は、A型より短時間・少ない日数での就労が可能です。

A型事業所での就労が難しい人や、障害の程度が重い人に向いています。

就労継続支援B型事業所は、利用にあたって雇用契約を締結しません。

働き方の契約がないため、体調や特性にあわせて柔軟に利用できます。「一日一時間だけ」「週に一日だけ」と短時間だけ利用する人もいます。

柔軟な働き方が叶う反面、支払われる金銭(工賃)は低めです。なかには最低賃金に満たない事業所もあります。

就労継続支援B型事業所では、軽作業を中心とした仕事に従事します。農作業や部品加工、手工業などがメインです。

4-3.地域活動センター

地域活動センターは、障害がある人の社会参加を支援します。創作活動や生産活動を通じ、社会参加の実感を得られます。

地域活動センターの目的は就業ではなく、生産活動の作業と場所を提供することです。作業をしても工賃が発生しないケースもあり、事前調査が大切です。

地域活動センターで生産活動に順応し、A型・B型事業所に移行する人もいます。

5.福祉的就労の利用条件

福祉的就労の利用条件福祉的就労が利用できる条件を解説します。

代表的な福祉的就労施設である就労継続支援A型・B型事業所に絞ってまとめました。

詳しくは自治体の福祉課窓口にお問い合わせください。

5-1.就労継続支援A型事業所の利用条件

就労継続支援A型事業所を利用できるのは、つぎの条件に当てはまる人です。

<A型事業所を利用できる人>

  • ・就職経験はあるが、事情があり現在は難しい
  • ・就労移行支援事業を利用したが、一般就労に結びつかなかった
  • ・特別支援学校のを卒業後、求職活動をしたが、一般就労に結びつかなかった

障害や難病により一般就労が困難でも、適切なサポートを受ければ雇用契約に基づく就労が可能な人を対象とします。

A型事業所の対象年齢は18歳~64歳で、制度を利用する期間の上限はありません。

5-2.就労継続支援B型事業所の利用条件

就労継続支援B型事業所を利用できるのは、つぎの条件に当てはまる人です。

<B型事業所を利用できる人>

  • ・一般就労/A型事業所での就労経験があるが、事情により継続的な雇用が困難と判断された
  • ・50歳以上である
  • ・障害基礎年金1級の受給者である
  • ・就労移行支援事業者等により就労面にかんする課題が把握されている

B型事業所を利用できるのは、障害や難病により一般企業・A型事業所での就労が困難な人です。

一般就労やA型事業所は、雇用契約を結んで就労しなければなりません。雇用契約に則った働き方が難しい人向けの施設がB型事業所だと考えてください。

B型事業所には、対象年齢がありません。高齢者も利用できます。

6.障害者手帳がなくてもA型・B型事業所での福祉的就労は可能

障害者手帳がなくてもA型・B型事業所での福祉的就労は可能福祉的就労は、障害者手帳がなくても利用できます。

これまで「手帳がないから」と福祉的就労の利用をあきらめていた人は、この章をぜひチェックしてください。

障害者手帳を持たない人による、福祉的就労の利用方法を解説します。

6-1.障害福祉サービス受給者証とは

障害者手帳の代わりに「障害福祉サービス受給者証」があれば、福祉的就労を利用できます。

障害福祉サービス受給者証は、福祉的就労をはじめとする各種の福祉サービスを利用する権利がある証明書です。「受給者証」とも呼ばれます。

取得するには、お住まいの自治体の福祉課窓口に申請します。

6-2.受給者証の申請に必要な書類

障害福祉サービス受給者証の申請に必要な書類は、以下の4つです。

  • ・申請書
  • ・マイナンバー
  • ・本人確認書類
  • ・主治医の診断書/自立支援医療受給者証

主治医の診断書は、障害や病気の証明となります。

障害福祉サービスは障害・病気のために困難を感じる人の支援が目的です。利用にあたり、障害・病気の程度や状況の説明は欠かせません。

医師の診断書は、自立支援医療受給者証でも代用できます。

自立支援医療受給者証は、心身の障害を除去・軽減するために利用した医療費の負担を軽減する制度の利用証明です。

7.福祉的就労の具体的な仕事内容

福祉的就労では、具体的にどのような一日を過ごすのでしょうか。

ある事業所の作業内容やスケジュールの例を紹介します。

7-1.作業内容

福祉的就労の具体的な仕事内容一般就労への移行を目指すA型事業所や、A型事業所への移行を目指すB型事業所で行われる作業の例です。

作業項目
詳細
パソコンを使った業務 データ入力、Webデザイン、SNS投稿、動画作成
飲食物の製造 パンやお菓子などの製造、包装、販売
ダイレクトメールの仕分けや配達 ダイレクトメールの封入、仕分け、配達作業
清掃作業 施設の掃除、ワックスがけ、軽微な修繕
軽作業 農作業、農作物のパック詰め、宛名貼り、検品
オリジナルグッズの製造・販売  生活雑貨の製造、包装、販売
接客作業
レストラン・カフェでの接客、販売

7-2.一日のスケジュール

一日のスケジュールA型・B型事業所とも、一日のスケジュールは利用者が無理なく働けるよう配慮されます。

時間  内容
9:00 朝礼、体操、連絡伝達
9:30 午前中の作業(1)
10:30 午前中の小休憩
10:45  午前中の作業(2)
12:00 昼休憩
13:00 午後の作業
14:15 片づけ、清掃
14:30  終業、帰宅

上記はA型事業所のスケジュール例です。

集中の持続が難しい人や長時間の作業が困難な人の集まるB型事業所では、始業を遅らせ、休憩を多くとる場合もあります。

8.福祉的就労の賃金相場

福祉的就労の賃金相場福祉的就労の賃金(工賃)相場を、A型・B型事業所に分けて解説します。

厚生労働省の調査では、以下の結果となりました。

  • ・A型事業所の平均賃金:月81,645円(時給換算 926円)
  • ・B型事業所の平均工賃:月16,507円(時給換算 233円)

(※ 参照:「令和3年度工賃(賃金)の実績について」|厚生労働省

B型事業所の平均工賃は、右肩上がりで伸びています。一方で、水準の低さが問題視されています。

(※ 参照:「令和3年度工賃(賃金)の実績について」|厚生労働省 、以下同)

A型事業所の平均賃金は、2014年に底を打ちました。現在は徐々に上がっている段階です。

8-1.B型事業所の工賃が低い理由

B型事業所での就労は、雇用契約を結びません。

雇用契約で就労時間や作業量が決められることはなく、柔軟な働き方が可能になる点は利用者にとってメリットです。

ところが、事業所と雇用関係がないために、労働基準法が適用されません。労働基準法が定める最低賃金が適用されず、低い工賃水準に留まり続けています。

令和5年度(2023年)10月~の最低賃金は、東京都で時給1,072円です。B型事業所の工賃を時給換算した233円は、最低賃金に遠く及びません。

(参照:地域別最低賃金の全国一覧│厚生労働省

B型事業所の工賃水準の低さは、福祉的就労全体の課題です。つぎの章で、詳しく解説します。

9.福祉的就労の3つの課題

福祉的就労の3つの課題福祉的就労は、障害がある人に柔軟な就労機会を提供します。一方、さまざまな課題があるのも事実です。

福祉的就労が抱える課題を3つ、解説します。

9-1.事業所ごとの質のバラつきが大きい(A型)

A型事業所の数は、20年あまりで約35倍に急増しています。事業所数の急増により、質のバラつきを起こしている問題が指摘されています。

A型事業所数の急増は、社会福祉法人以外にも運営許可を広げたことが要因です。福祉系株式会社や新規法人設立による参入が相次ぎました。

新規参入した事業所のなかには、補助金頼みのずさんな経営を続けるところもあります。補助金がなくなった途端に倒産し、利用者が露頭に迷うケースも少なくありません。

現在、国はA型事業所の評価基準を変更し、質を向上させるべく動いています。

9-2.適正な工賃を支払わない事業所がある(B型)

B型事業所は工賃の低さが問題視されています。「障害年金と合わせても自立が難しい」との声もあります。

障害者年金は障害の程度や家族構成によって異なりますが、1級の本人分が約8万円です。ここに平均工賃16,000円を加えると、月の収入は約96,000円となります。

障害者手帳があると、医療費や公共料金、税金などさまざまな費用の割引・助成が受けられます。

しかし、現実的に月に10万円弱で自立した生活を送るのは困難でしょう。

B型事業所の収益性を高めるべく国も動きを見せていますが、十分な成果が上がっているとは言えないのが現状です。

9-3.本人に最適なサービスにつなげられていない

福祉的就労は利用者の適性や習熟度を見て、最適なサービスに転じる支援を行うことが理想です。

現実は、最適なサービスとのマッチングが機能しているとはいえません。就労系の障害福祉サービスは、利用開始時に選択せざるを得ないためです。

利用者本人が自身の就労能力や一般就労の可能性を把握できないうちに選択したサービスが固定化され、より適したサービスにつなげられていません。

この問題を解決するために、国は2024年から「就労選択支援」サービスを新設します。

就労選択支援は、障害がある人の希望や能力にあう仕事探しの支援や、関係機関との橋渡しに貢献すると期待されています。

10.福祉的就労を開始する前の確認事項5つ

福祉的就労を開始する前の確認事項5つ福祉的就労を始める前に確認しておきたい、5つの項目を解説します。

事業所での就労を始めてから後悔しないために、どれも大切な項目です。

10-1.利用事業所の経営状況はどうか

利用候補の事業所は、安定し質の高い経営状況にあるか確認しましょう。

A型事業所には、利用者の賃金を国・自治体の補助金でまかなっているところがあります。賃金は事業活動で得た利益で支払わなければなりません。

経営計画がずさんで想定通りの利益が出せず、やってはいけない補助金による賃金支払いが常態化する事業所もあります。

厚生労働省の調査では、経営計画の見直しが必要な事業所が7割にのぼるとしています。

事業所の経営状況を、自治体のホームページで確認しておきましょう。

(参照:就労継続支援に係る報酬・基準について≪論点等≫|厚生労働省

10-2.賃金・工賃が相場にあっているか

作業の対価として支払われる賃金・工賃が、相場と比べて納得できる金額か確認します。

A型事業所は、地域の最低賃金以上の支払いが必要です。B型事業所には、極端に低い工賃を設定するところもあります。

収入は、就労に対するモチベーションにかかわる大切な要素です。必要とする金額を手にできるかどうか、チェックしてください。

社会保険制度がある事業所の場合は、加入により保険料の自己負担が発生します。手取り賃金がどの程度になるか、忘れずに確認しましょう。

10-3.事業所の雰囲気やスタッフはあいそうか

事業所の雰囲気やスタッフとの相性は、福祉的就労の持続に影響します。居心地よく感じられる事業所なら自然と継続でき、相性が合わない場合は通う意欲をそがれるでしょう。

通う事業所を決める前にかならず見学と体験の機会を設け、雰囲気やスタッフのかかわりかたを実際に確かめてください。

10-4.事業所の立地・場所

自宅から事業所までの通いやすさは、実際に移動して確認します。

どんなに良い事業所でも、遠くて通いにくい場所にある場合はおすすめできません。移動だけで疲れてしまい、作業に集中して取り組めない可能性があります。

通うペースや時間を踏まえ、体力・気力面に負担をかけずに通える場所にある事業所を選びましょう。

10-5.一般就労への移行実績

事業所に問い合わせる際は、一般就労への移行実績を聞き出しましょう。

一般就労への移行実績は、事業所により顕著に差があらわれます。一般就労移行率が50%以上の事業所が22%ある一方で、0%の事業所は29.7%です(2016年調査)。

(※ 参照:就労移行支援に係る報酬・基準について| 厚生労働省

一般就労を目指して福祉的就労を始めても、事業所が一般就労に移行するノウハウを持っていなければ、必要なサポートを受けられないかもしれません。

実績を調べるなかで、事業所の取り組みや支援の充実度への理解も深まります。実績は積極的にリサーチしてください。

11.福祉的就労に関する相談先

福祉的就労に関する相談先福祉的就労に関して相談できる窓口を紹介します。

はじめての福祉的就労なら、まず自治体へ相談しましょう。今後の手順や関係機関との連携も取り計らってくれます。

11-1.自治体の福祉課

福祉的サービスの利用には、自治体への申請が必要です。

福祉的就労の相談は、以下の窓口が対応します。

  • 福祉課
  • ・健康課
  • ・障害者福祉課 など

精神保健福祉センターや障がい者職業センター、発達障害者支援センターなども相談に乗ってくれます。

11-2.利用したい事業所

利用予定の事業所候補が決まっていれば、事業所に直接相談しても構いません。

必要な書類や手続き、問い合わせ先などを一括で教えてもらえます。

お近くの事業所を探したい場合は、以下の厚生労働省のリンク集が参考になります。

参考:障害者福祉サービス事業所等 都道府県別リンク一覧|厚生労働省

11-3.相談支援事業所

相談支援事業所は、障害がある人の生活に関する困りごとに対応する窓口です。生活の自立や就労の相談対応、必要な情報や助言の提供を行います。

利用申請書類の作成や事業所との連絡調整など、細かな作業もサポートします。事業所の利用が始まった後も継続的に見守り、支援してくれる頼もしい存在です。

12.まとめ

福祉的就労は、障害がある人が利用できる就労支援です。専門の事業所で、無理のないペースで働き始められます。

働くことに慣れながら特性や希望に合わせて就労スキルを身につけ、一般就労に移行する人もいます。

賃金・工賃の低さや事業所によって質にバラつきがある点に、注意しましょう。始める前に見学・体験をして、納得できる事業所を選ぶことが大切です。

現在発達障害を抱えている人は以下の記事も就職活動にお役立てください。