最適な声の大きさを教えるSSTのやり方|効果を高めるコツ3つも
公開日: カテゴリー: SST
発達障害者は声を理由に「周囲とトラブルになる」「社会への適応が難しい」などの困難に直面することがあります。前触れなき大声や独り言は、一般の人から理解されにくい言動であるためです。
声の大きさが原因でトラブルになる発達障害者が自立するためには、声の大きさをコントロールできるスキルの習得が欠かせません。
しかし声量を制御するSSTは、ロールプレイやディスカッションなど一般的な手法に比べて認知が広がっていないのが現実です。
本記事では、放課後デイサービスを中心に特別支援現場をサポートするRYD編集部が、声の大きさのSST手法を解説します。今日から取り入れられるよう、具体的かつわかりやすくまとめました。
声の大きさに起因するトラブルを減らすために、また発達障害者の自立と社会適応を多角的にサポートするために、本記事をぜひご活用ください。
SSTで声の大きさの練習が大切な理由
声の大きさは見逃されやすい問題です。しかし参加者同士のコミュニケーション上のトラブルやSSTの習得度合いと、声の大きさは無関係ではありません。
SSTで声の大きさを意識し、練習すべき理由を2つの側面から解説します。
場面に応じた声量コントロールが苦手な人がいるため
発達障害者の中には「突然大きな声を出す」「場面に最適な声量で話せない」などの特性を持つ人がいます。こうした行動はときに集団生活で、周りの人に怪訝な印象を与える場合があります。
発達障害者が自立し、社会に適応するためにも声量を制御できるスキルが大切です。
声のボリュームを調整できない人が、大きな声を出してしまう理由は、以下の5つが考えられます。
- *自己刺激(自分の声を感覚刺激としている)
- *ほかの刺激からの防衛(特定の音刺激から自分を守っている)
- *注目の獲得(人と関わる方法として大きな声を使っている)
- *大きな声を出している自覚がない(声量を客観視するスキルが不足している)
- *不安の解消(不安な気持ちと戦っている)
大きな声を出してしまう気持ちに寄り添いつつ、後述する声の大きさのSSTに前向きに取り組める環境を整えてあげましょう。
大きな声や音を苦手とする人がいるため
発達障害者のなかには「聴覚に対する過敏性」を持つ人がいます。聴覚過敏とも呼ばれるこの性質には、以下の特徴があります。
- *特定の音に対し過剰に反応する
- *多くの人には気にならない音が、異常に気になる
- *音の刺激によりイライラや疲労を感じる
急に大きな声を出す人がいる反面、音に過敏な人も同じ空間にいるのがSSTの現場です。ある人が発した大きな声が聴覚過敏の人を萎縮させてしまい、以降の活動に支障をきたしても困ります。
SSTに参加する全員にとって有意義な時間にするためにも、声量をコントロールできるスキルの習得は大切です。
聴覚過敏の人に配慮し、指導者も自身の声量に気をつけるようにしましょう。
声の大きさには4種類ある
同じ声でも、人によって大きさの感じ方は異なります。まず声の大きさを区別し、「ちょうど良い声の大きさ」に対する共通認識を醸成する作業から始めましょう。
日常生活の声は、次の4種類に分けられます。
- *ひそひそ声
- *近くの人と話す小さな声
- *元気の良い声
- *遠くの人にも聞こえる大きな声
幼児~小学校低学年のお子さんには、小さい声から順に「アリさんの声<うさぎさんの声<ライオンさんの声<ゾウさんの声」と動物で例示すると伝わりやすくなります。数字の大小が理解できる年齢以上なら、「1~4」と数字で表示しても良いでしょう。
◎ 関連情報
声の大きさをdB(デシベル・特定の基準に対する相対的な音の大きさを表す単位)で示すと、以下のようになります。
※ カッコ内は同じdBの音の例です。
- *人のささやき声:30~40dB(住宅地で快適に暮らせる範囲)
- *普通の話し声:60dB(車のアイ ドリング、水洗便所を流す音)
- *怒鳴り声:90dB(地下鉄車内)
- *叫び声:110~130dB(トランペット演奏、ジェット飛行機)
指導者が実際に発生してみせる際の参考にしてください。
参考:幼児の音声調節能力を向上させるゲーム UX デザイン|大阪芸術大学大学院芸術研究科
SSTで声の大きさを練習する方法
声の大きさSSTは、普段実施しているSSTの一環として取り入れるとスムーズに始められます。
必要な準備物は、声の大きさを可視化したポスターだけです。一通りのやり方を把握し、今日のSSTから早速始めてみましょう。
声量コントロールの練習を進めるやり方を解説します。
声の大きさを可視化する
声の大きさを具体的にわかりやすく示したポスターを用意します。SSTの教室や出入口など参加者によく見える場所に掲示しましょう。
声の大きさを可視化したポスターは、以下のサイトから無料でダウンロードできます。
声のものさし表|特別支援教育「すぐに使える!プリント+ビデオクリップ」
発達障害の人の中には、目で見たほうが情報をよく理解できる人がいます(視覚優位)。大切な情報は口頭で伝えるだけでなく、視覚的にも訴求しましょう。
実際に声に出し体感してみる
ポスターを見ながら声の種類を共有したら、実際に声を出して体感する時間を設けます。
「ゾウさんの声は大きいかな?アリさんはどうかな?」と声の大小を意識させた後、指導者がお手本として声を出してみせます。続いて参加者が声の大きさを真似し、具体的な大きさを体感します。
ポスターは、貼ってあるだけではすぐに「景色」「背景」になってしまいます。ポスターの情報と実際の声量とを結びつけるために、一緒にやってみる時間を大切にしましょう。
場面ごとに「最適な声の大きさ」を意識させる
参加者全員に声の種類と大きさの共通認識が形成できたら、日常の活動に声の大きさSSTを組み入れてみましょう。
声量コントロールが自然にできるようになるためにも、練習する場面のバリエーションは多いほうが望ましいです。
挨拶や友達とのおしゃべり、先生に話しかけるときなど、あらゆる場面で声の大きさを意識して活動します。
チームで相談し発表する活動のときに、行動の指示にくわえて「他のチームに相談内容が聞こえないように『うさぎさんの声で』話し合ってください」と対応すると、自然な流れで声の大きさに意識を向けられます。
周りの人に合わせる練習をする
声の大きさの使い分けが苦手な場合は、周りの人に合わせたボリュームで話すよう伝えます。
このやり方は、発話者が自分自身で適正な声の大きさを考える必要がありません。声量コントロールに対する心理的な負荷が減り、練習への抵抗感も減ると期待できます。
ただし周りの人の声量に合わせる方法は、周りの人が適正なボリュームで話せていることが前提です。指導者やソーシャルスキルを持つメンバーなど、声量コントロールができる人を真似るよう指示しましょう。
成長が見られたら良いフィードバックをする
ちょうど良い声量で話せたら、すかさず承認します。
参加者が実際に出した声の記憶が新しいうちに承認を受けると、徐々に声の大きさに対する意識が高まっていきます。
「ちょうど良い声が出せた」との成功体験はSST参加への意欲となり、練習に前向きな姿勢を生み出す好循環を生み出せるでしょう。
声の大きさを承認する際は、「今くらいの大きさがアリさんだね」「ライオンさんの声でご挨拶ができたね」と具体的に伝えましょう。
声の大きさとポスターで示した基準とが徐々にすり合わさり、場面にふさわしい大きさで話せるようになっていきます。
声の大きさSSTの効果を高める3つのコツ
声の大きさに関するSSTを、スピーディに習得まで持っていくコツを3つ解説します。
- ①指導者自身が声の大きさを意識する
- ②最適な声の大きさを参加者に考えさせる
- ③アプリやツールを活用する
声の大きさに関する練習は、やりはじめたらできるだけ短期間で成果を実感させるのが成功のコツです。
一気呵成に習得させ、その後のSSTがスムーズに進行できる基本的スキルとしてしまいましょう。
指導者自身が声の大きさを意識する
相手にできるようにさせるためには、まず指導者自身が意識し積極的に取り組む姿勢を見せましょう。「やってみせ」の継続が、参加者への意識づけ・動機づけになります。
ポスターを貼っただけで何もやってみせずにいた指導者が、大声が聞こえたときだけ「いまはアリさんの声で静かに話す場面です」と伝えても混乱をまねくだけです。
毎日、折につけて「今日は〇〇の声でご挨拶をしましょう」と注意して意識づけを続けましょう。
さらに「いまから先生はライオンさんの声で発表します」と、指導者自身が声の大きさを意識している姿を見せ続けることも大切です。
最適な声の大きさを参加者に考えさせる
声の大きさに対して主体的な意識を醸成するために、最適な声の大きさを参加者に考えさせる取り組みも効果的です。
活動の導入時に、これからやる活動ではどれくらいの声の大きさが適当か参加者に考えさせる時間を設けてみましょう。最適な声の大きさを発表しあうと、参加者の認識度が確認できます。
もし最適な声の大きさにズレがあった場合は、「今日はうさぎさんの声で取り組んでみましょう」と目標を示しつつ、ズレを修正してみてください。
アプリやツールを活用する
声の大きさに対する興味を喚起しやすいアプリやツールも、積極的に利用してみましょう。アプリやツールは「もっとやりたい」と意欲を刺激し、練習に対する前向きな気持ちを引き出します。
声の大きさSSTにおすすめのアプリ・ツールを紹介します。
■休むな!8分音符ちゃん
「休むな!8分音符ちゃん」は、声で遊ぶアクションゲームアプリです。八分音符(♪)のキャラクターを声の大きさでコントロールし、ステージクリアを目指します。
小さな声で前進・大きな声でジャンプ、さらに大きな声ではハイジャンプ!ゲーム内で話す内容は自由です。歌ってもお経を唱えても、おしゃべりしても構いません。
八分音符ちゃんを進めようとするうちに、声音やボリュームをコントロールする力が自然と身につきます。
■コムフレンド 声のものさし「ボイスルーラー」
コムフレンド 声のものさし「ボイスルーラー」は、自分の声量をLEDライトで可視化してくれるツールです。
声量コントロールが苦手な発達障害者向けに開発されており、事業所での声量トレーニングに利用されています。声のボリュームを可視化するため、客観的に声量を把握できます。
声量表示は全部で5段階です。「3の大きさで話してみよう」と、指導者も最適な声量を伝えやすくなります。
SSTはVRの時代へ!「Realize VR」
日々やるべきタスクが山積しており、やってあげたい取り組みにまで手が回らないと悩む支援現場は多いのではないでしょうか。
SSTをはじめとする発達障害支援は一人ひとりへの寄り添いが大切な分、関わりのに時間と手間がかかります。スタッフも時間も、どれくらいあっても足りないのが現実です。
「それでも、少しでも少しでも質の高いSSTを提供したい」「もっとさまざまな取り組みをやってあげたい」とお考えなら、SSTにVRを導入する方法がおすすめです。
VR(Virtual Reality・仮想現実)を使ったSSTなら、専用VRゴーグルを装着するだけで高品質でバリエーション豊富なSSTに取り組めます。支援現場スタッフの負担を軽減し、本来必要な業務に人的リソースを割けるようになります。
まとめ
発達障害者に対するSSTでは、声の大きさへの配慮が大切です。
声量のコントロールが難しく社会適応に課題を抱える人や、大きな声が苦手な聴覚過敏の人など、「声の大きさ」に対する支援を必要とする人が多いためです。
SSTで声の大きさをトレーニングする際は、声量の基準を参加者と共有します。その後、日々のさまざまな場面で声の大きさを意識させる声掛けを続けましょう。
「本当は声の大きさに関するSSTをしてあげたいが、人手不足でできない」と悩む現場には、スタッフの業務負担を軽減させるツールの導入もおすすめです。
たとえばSSTにVRを導入すれば、スタッフはゴーグルを準備するだけでSSTを始められます。
「Realize VR」は発達障害者が困難を感じやすい日常場面を中心に、300以上のSST映像を収録した最新のSST支援ツールです。
品質や使い勝手はぜひ、無料体験でお確かめください。体験のお申し込み、また詳しい機能や使い方に関するお問い合わせは下のボタンから承っています。