発達障害が一人でできる仕事は?探し方とデキる人になる工夫まで
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コミュニケーションに困難を感じやすい発達障害にとって、多くの人と長い時間を過ごさなければならない職場はストレスのかたまりかもしれません。
「職場の人と接したくない」「一人でできる仕事があったらいいのに」と考えるのも、無理のないことでしょう。
では一人でできる仕事とは、どのような職種でしょうか。
本記事では発達障害の人に向けて、対人関係の負担が少ない仕事や特性を活かせる仕事を具体的に紹介します。
健常発達者と同じように仕事ができるようになるために、工夫したいポイントもまとめました。
希望にあう仕事を見つけるヒントに、そしてあなたがもっと自分らしく活躍できる場所を見つける道しるべにと、ご活用ください。
1.一人でできる仕事とは
一人でできる具体的な仕事を紹介する前に「一人でできる」とはどのような意味か、考えてみましょう。
1-1.完全に一人で完結できる仕事はない
この世の中に「一人だけで進められる仕事」はあるのでしょうか。
徹頭徹尾、一人で完結できる仕事は残念ながらありません。どの仕事も、どこかの場面では他人とのかかわりが発生します。
一人でできるイメージがある在宅ワークも、詳細の擦り合わせや進捗報告などクライアントとのコミュニケーションが必要です。
しかし、相対的に他人とのかかわりが少なくて済む仕事は存在します。この記事では「一人でできる仕事=他人とのかかわりが相対的に少ない仕事」と定義し、さまざまな仕事を紹介します。
発達障害の顕出する特性は、人によって異なります。人とのかかわりでとくに苦手と感じる場面を分析し、その場面が少ない仕事を見つけていきましょう。
1-2.一人でできる仕事には2つの形態がある
一人でできる仕事は、つぎの2つに大別できます。
1-2-1.個人事業主
個人事業主は、自分一人で事業を営む働き方です。一般的に「一人でできる」との言葉から連想する働き方に該当するかもしれません。
自分のアイデアを活かしてビジネスを起こす人と、企業や個人から仕事を受注して生計を立てる人とがいます。働き方を工夫すれば人とのかかわりを最小にでき、自分のペースで働けるメリットがあります。
ただし経理や税金の支払を含め、仕事にかんするすべてを自分でやらなければなりません。
1-2-2.人とのかかわりが少ない部署で働く会社員
会社に雇用されていても、配属部署によっては人とのかかわりが少なくて済むケースもあります。
チームで業務を進める仕事で、自分に割り当てられた決まったタスクだけをこなせば良い例が該当します。
<分業制の仕事の例>
- ・イベントスタッフ
- ・工場の製造ラインスタッフ
- ・倉庫内作業スタッフ など
受付センターや分析センターの職員が担うのも、人とのかかわりが少ない仕事です。基本的にマニュアルに則って目の前のタスクをこなせれば、仕事に支障はありません。
<センターでの仕事例>
- ・電話応対スタッフ
- ・情報登録スタッフ
- ・品質検査スタッフ
- ・測定データの解析スタッフ など
2.発達障害に向いている一人でできる仕事の例
発達障害には多くの特性があります。
主な症例はASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥・多動症)、LD(学習障害)で、複数の特性を併せ持つ人もたくさんいます。
「自分はASDだから〇〇の仕事」「ADHDだから××職」と、症名から適職を探すのも一つの方法です。ただし今回は、別の観点から考えてみましょう。
特性・気質からあう仕事を見つける方法を解説します。
2-1.対人関係が苦手な人には、他人と対面する機会が少ない仕事
「人と顔を合わせると気後れする」「とっさの会話が苦手」と、対人関係にストレスを感じやすい人は、人と対面しなくても済む仕事を探しましょう。
Web関連職は、人との対面が少ない仕事です。
◎ Web関連職の例
- ・プログラマー
- ・エンジニア
- ・Webライター
- ・Webデザイナー
- ・動画編集者 など
これらの仕事では、日常的なやり取りはチャットがメインです。打ち合わせも対面ではなく、オンラインで済むケースがほとんどです。
フリーランスとして一人でWeb関連職を始められれば、人と顔を合わせる機会はほとんどありません。
ほかに清掃や警備員も、比較的人と会わずにできる仕事です。
2-2.過集中の人には、専門分野を追求する仕事
健常発達者からは想像もつかないほどの集中力を発揮する過集中の人は、専門分野を突き詰められる仕事が向いています。
◎ 専門分野を追及する仕事の例
- ・校正者
- ・研究者
- ・会計士
- ・税理士
- ・建築士 など
これらの仕事も、一緒に仕事を進める仲間や顧客とのやり取りは必要です。
しかし、仕事の評価は専門分野のクオリティで決まります。好きな分野にのめりこむほど、「最高の仕事をしてくれる」との評価を得られるでしょう。
独立し開業しようとすると営業活動が必要になります。営業活動や人とのかかわりを最小にしたいなら、雇用されるほうが良いかもしれません。決められた仕事を遂行すれば、収入が得られます。
2-3.多動や散漫が強い人には、感性やセンスが重視される仕事
多動や散漫は、興味関心が常にうつろいつづけることの裏返しといわれます。特性を活かせるよう、感性やセンスが重視される仕事を見つけてみましょう。
◎ 感性やセンスが重視される仕事の例
- ・料理人
- ・パティシエ
- ・ガーデナー
- ・デザイナー
- ・カメラマン
- ・ジャーナリスト など
どの仕事も多方面に注意が向き、新しい情報をインプットし続ける特性を活かせます。
健常発達者には得られないひらめきやアイデアが、新しい仕事を切り拓くきっかけになるかもしれません。
3.発達障害が一人で仕事をできるようになるために工夫したいポイント5つ
発達障害を持つ人が一人でできる仕事に就くには、単独で仕事を遂行できるスキルが必要です。
発達障害は、周りと同じように取り組んでもうまくはいきません。自分の特性を知り、特性を踏まえた工夫で仕事スキルを向上させましょう。
発達障害の人が一人で、自立して働きつづけるために大切にしたい仕事のポイントを5つ解説します。
関連記事:【発達障害タイプ別】向いてる仕事と長く働くコツ、悩みの解決方法
3-1.ツールやアプリを活用し、ミスを防ぐ
スキルをピンポイントでサポートしてくれるツールやアプリが、多数リリースされています。
「ここを強化したい」と感じる特性にあったツール・アプリを利用し、ミスを防止していきましょう。
◎ 発達障害の人におすすめのツール・アプリの例
タスク管理アプリ「コンダクター」は、発達障害の特性に寄り添ったコンセプトで開発されました。
発達障害の社会的認知が進むにつれ、発達障害者向けに開発されるツール・アプリも増えています。
3-2.段取りや手順を見える化し、失念を減らす
見える化は、課題やタスクを書き出して文字通り「見えるようにする」作業です。
頭の中だけにある情報は忘れやすく、うっかりミスの原因になります。いつでも目に入るメモや掲示に可視化し、失念を減らしましょう。
◎ 発達障害が可視化すると良い情報の例
- ・予定(時刻・場所・内容まで)
- ・手順(自分用のマニュアルを作るつもりで)
- ・段取り(やる順番に番号を振ってわかりやすく)
とくに大切な予定は、目立つところに書き出すのもおすすめです。ホワイトボードやドアは最適な場所でしょう。周りの人に了解を得ておくと、不要なトラブルを防止できます。
話の内容をメモに残すのもおすすめです。聞きながらメモをするのが難しい場合は、話を録音しておき、後から振り返りができるようにしておきましょう。
3-3.コミュニケーションを定型化し、ストレスを軽減する
発達障害の人は雑談や世間話を苦手に感じるケースが多いようです。
何ごとにも一生懸命な特性をもつゆえ、相手が発する一言ひとことを真に受けてしまい、返答に窮するのが原因のようです。
しかし雑談は場を持たせることが目的の場面もよくあり、話す内容は気にしない人も多いのです。
よくある雑談は定型化してしまいましょう。パターンを覚えてしまえば、毎日返答に悩む必要がなくなります。
◎ 雑談を定型化する例
- ・天気や気温
「きょうは暑い(寒い)ですね」「そうですね、体調はお変わりないですか」
- ・最近の調子
「最近、どうですか」「おかげさまで、ぼちぼちがんばっています」
上司への報連相も定型化できます。とりわけ発生頻度が高い進捗確認や完了報告は定型化がおすすめです。
悩まなくても言葉がでるようになり、対人関係のストレスが軽減できます。
3-4.建前・暗黙の了解の“本音”を言語化し、行き違いを防ぐ
発達障害、とくにASDの傾向が強い人はコミュニケーションに困難を感じやすい特徴があります。
とくに「建前の裏にある本音を理解する」「暗黙の了解を把握する」などの、言葉に隠された暗黙知をつかむのが苦手です。
このタイプの人は建前や暗黙の了解の一般論を学び、予備知識をつけましょう。よくある展開を知っておくと、言葉に振り回されずに済むようになります。
◎ 建前・暗黙の了解の例
- ・「今度飲みに行きましょう」→ その場で予定を決めなかったら忘れてOK
- ・「○○部長には“すぐに”報告した方がいい」→ ○○部長が席に着いたら報告に行く
建前・暗黙の了解は仲の良い人に聞く・書籍を読む方法で学べます。
3-5.自分の特性をカミングアウトし、サポートを得られる環境を作る
思い切って自分の特性をカミングアウトしてみませんか。
健常発達者の社会に適応する工夫も大切ですが、うまくいかなければ自分の苦労はずっと続きます。
「自分にはこのような特性がある」と伝えてみましょう。「だから、〇〇や△△の対応をしてもらえると助かる」と周囲に具体的な対応をリクエストしてみてください。
あなたが活躍できるようになることは、会社や顧客にとってもメリットがあります。お互いのWin-Winを目指して、サポートを得られる環境をみずから取りにいきましょう。
<コラム>発達障害をカミングアウトするときに
鳥取大学医学部教授である井上雅彦先生が監修した「わたしのトリセツ(取扱説明書)」は、発達障害の特性や困りごとを周囲にわかりやすく伝えるツールです。
わかりやすく具体的な表現で書かれており、自分が必要とするサポートや対応をシンプルにまとめられます。
自分の特性を周りにどのように伝えたら良いか困っている人は、ぜひご活用ください。ダウンロード・印刷して使います。
DLサイト:わたしのトリセツ
解説サイト:発達障害プロジェクト|NHK
4.一人でできる仕事を見つけたい発達障害者の相談先
発達障害の人が、就労や希望にあう仕事を見つけたいときに相談できる窓口を5つ、紹介します。
まずはさまざまな窓口に出向き、専門家の話に耳を傾けてみましょう。それぞれ対応分野や得意とする相談が異なり、自分では気づけなかった視点を得られるかもしれません。
4-1.医療機関・専門家
自分にあう仕事を見つけるには、特性の正しい把握が大切です。
医療機関や自治体の福祉課・保健センターを頼り、自分の特性や資質を客観的に見てもらいましょう。
医療機関(精神科・心療内科)では専門的な検査をおこない、医学的見地から症状を見立てます。
発達障害の診断書が下りると、障害者枠の求人に応募できるようになります。
また医師は、症状の受け止め方や日常生活で心掛けたい注意点もアドバイスします。医学的に正しい情報を得られるのは医療機関に相談するメリットです。
自治体の福祉課や保健センターでは、日常生活や就労に関する相談・サポートが可能です。
求人への応募の仕方や面接の心構え、企業への特性の伝え方など実地的な支援が必要なら、福祉課や保健センターに行ってみましょう。
「いきなり病院に行くのは気が重い」と感じる人にも、自治体への相談がおすすめです。
ただし就職の際に障害者枠へ応募するには、医師による診断書が必要です。
4-2.ハローワーク
ハローワークは就職先紹介のほか、以下の相談も受けつけています。
- ・気になる求人への質問
- ・求職活動の仕方の相談
- ・適職相談
- ・応募書類や面接の添削・指導
ハローワークでの相談は失業手当の受給要件である「求職活動の実績」になります。失業中で手当を受けている人は、ぜひハローワークで特性にあう仕事に相談してみましょう。
ハローワークは地域に密着した中小企業の求人を多数取り扱っています。求人を出している企業に関する情報も豊富で、特性にあった求人の紹介が期待できます。
4-3.発達障害支援センター
発達障害支援センターは発達障害者支援法に基づき運営されている、発達障害専門の相談機関です。
発達障害支援センターには、発達障害の専門家が常駐しています。
◎ 発達障害者支援センターにいる専門家の例
- ・社会福祉士
- ・公認心理師・臨床心理士
- ・言語聴覚士
- ・精神保健福祉士
- ・精神科医師 など
医療機関とも連携しており、発達障害者の生活から就労、自立まで総合的に支援します。診断書や障害者手帳を持たない人でも相談可能です。医療機関に行く前の気軽な相談先として利用してみてください。
4-4.障害者向けの就職・転職フェアやセミナー
具体的な仕事探しをしたい人、すぐにでも転職したい人には障害者向けの就職・転職フェアやセミナーへの参加がおすすめです。
東京・大阪を中心に、障害者雇用に特化した就職・転職フェアやセミナーが多数開催されています。企業の人事担当者や経営者が来場しており、具体的な話を直接できる点がメリットです。
発達障害者の就労相談を受ける相談窓口を設置するイベントもあります。
4-5.個人事業主や経営者をしている知人
個人事業主や経営者の知人がいれば、仕事の相談をしてみましょう。自分で事業を営む人は、事業主しか知りえないさまざまな情報を知っています。
個人事業主のなかには、まさに「一人でできる」との理由でその仕事をしている人がいるかもしれません。経営者同士で「こんな人を雇いたい」と情報交換しているケースもあります。
彼らの話には、一人でできる仕事を探すヒントが詰まっています。
◎ 個人事業主や経営者の知人がいない場合は?
「気軽に話せる個人事業主・経営者の知人はいない」場合は、SNSや掲示板、個人ブログを探すと経験談や本音が見つかります。 検索するときは、サービスのトップページの検索窓に「発達障害 一人でできる仕事」と打ち込みましょう。ブログなら「Amebaブログ」「ブログ村」が情報豊富です。 ただしWeb上で見つかる情報には、詐欺や勧誘も混じっています。怪しいと思ったらすぐにページを閉じるよう、注意しながら閲覧しましょう。 |
5.一人でも働ける自分になれるセルフ就労支援はいかが
「一人で働ける仕事を見つけたいが、相談に行くのは気が引ける」、そんな人に向けて就労に必要なスキルを自宅で身につけられる方法を紹介します。
5-1.VRでソーシャルスキルトレーニング
「Realize VR」はVR(Virtual Reality・仮想現実)を利用した就労トレーニングツールです。VRなので実際に人と対面する必要はなく、自分のペースで必要なスキルを伸ばせます。
現実に限りなく近い映像と音声が繰り広げられるのが、VRの特徴です。相手の表情から心情を読み取る練習や、建前に隠れた本音を考える練習にも活用できます。
関連記事:社会に出るための技能訓練!障害を持つ大人向けのソーシャルスキルトレーニング
5-2.Realize VRがおすすめの理由
Realize VRには、150もの社会でよくある場面が収録されています。
◎ Realize VRに収録されている場面の例
- ・電話応対
- ・上司への相談
- ・相づちの打ち方
- ・面接対策
- ・休憩中の会話
- ・ミスの報告
- ・期日の相談
コミュニケーション能力を重点的に伸ばす設計で、すぐに使える実戦的なシチュエーションが豊富です。
就労移行支援に携わる施設向けに開発されており、品質にも定評があります。
気になる人は、下のボタンからRealize VRをいますぐチェックしてみてください。
6.まとめ
コミュニケーションや人間関係に課題を感じやすいのが、発達障害の特徴です。できれば人とかかわらずに済む仕事に就きたいと考えるのも、無理はありません。
発達障害の特性は、視点を変えると強みになり得ます。特性を弱点ではなく強みと考え、強みを活かせる仕事を探してみましょう。
対人関係が苦手ならツールを介したコミュニケーションがメインの仕事を、過集中が課題なら集中が成果につながる仕事を探すと、きっと適職が見つかります。
医療機関やハローワーク、発達障害者支援センターをはじめとした、頼れる相談機関はどんどん使ってみてください。第三者の意見が、自分にとって新たな気づきになる場合もあります。