実行機能を伸ばすトレーニング例5つと効果性を高めるポイント

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公開日:  カテゴリー: SST

実行機能は日常生活に欠かせない機能です。対象者の困難を具体的に解決できる手法で、実行機能を伸ばすトレーニングを行います。時間をかけ、じっくり取り組むことも大切です。

本記事では実行機能を5つの要素に分け、それぞれを伸ばすトレーニングを具体的に紹介します。実行機能トレーニングの効果性を高めるコツもまとめました。

少しの工夫で、実行機能は伸びていきます。本記事を参考に、きょうからぜひ実行機能トレーニングを実践してみてください。

1.実行機能とは

実行機能とは「目的や課題を達成するため、思考・感情・行動を制御・抑制する機能」です。

京都大学准教授で、発達心理学・発達認知神経科学が専門の森口佑介氏が提唱しました。

解決したいこと・やるべきことに対し、満足できる結果を得るために総動員するさまざまな能力、遂行能力と考えると理解しやすいでしょう。

実行機能は、私たちの生活のほとんどすべてに関わります。

天気予報を見て最適な衣服を選ぶ作業、夕食のメニューを考え段取りを決める作業、どれも実行機能がかかわっています。

2.実行機能を構成する5つの要素

実行機能を構成する5つの要素実行機能に含まれる要素は、諸説あります。

ここでは、実行機能に関する行動尺度「BRIEF-P」を見てみましょう。

BRIEF-Pは、実行機能を5つの要素に分類します。

要素 解説
Inhibit(抑制)  自分の衝動を制御し、適切に行動する
Shift(転換) 状況にあわせて活動や思考を自由に変える
Emotional Control(感情コントロール 状況にあわせて適切に感情を制御する
Working Memory(ワーキングメモリ) 課題遂行に必要な情報を保持し続ける
Plan/Organize(計画/組織化) 課題遂行のために先を見通す/適切な方法で実行する

対象者の困難を、上記の行動尺度に照合してみてください。

日常生活のどのような場面で困難を感じやすいのか、把握できます。

実行機能のどの要素に課題があるかがわかれば、対策が立てやすくなるでしょう。

(※ 参照:日本語版 BRIEF-P の開発-発達障害児支援への活用をめざして-

3.発達障害(ADHD・ASD)と実行機能の関連性

発達障害(ADHD・ASD)と実行機能の関連性ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害者は、実行機能にも課題が見られます。

これは発達障害が、脳の前頭前野の機能障害により起きるためと考えられています。

前頭前野の発達や働きが偏っているために発達障害になり、前頭前野が制御する実行機能にも影響を与えているとの理論です。

実行機能は、脳の前頭前野の発達に対応してゆっくりと成長します。年齢が上がるにつれて自己制御できるようになるのは、実行機能も成長しているためです。

また実行機能は学習や訓練で伸ばせるスキルです。

脳の報酬体系(満足・達成感を司る神経系)が、実行機能に関与しているとする説もあります。

発達に偏りがある人は、段階に応じた適切な経験を重ねるよう意識しましょう。実行機能を伸ばし困難を解決しやすくなります。

4.【幼児からできる】実行機能トレーニングのポイント2つ

【幼児からできる】実行機能トレーニングのポイント2つ実行機能トレーニングは、つぎの2点がポイントになります。

  • 環境
  • ・方法

実行機能トレーニングは幼児期から始められます。ただし、いきなりトレーニングを行うのではなく、環境と方法が整っているかを先にチェックしましょう。

4-1.環境を整える

実行機能は環境(生活環境・大人の関わりかた)の影響を強く受けることがわかっています

実行機能を伸ばすには、まず以下の環境を整えるよう意識します。

  • ・規則正しい生活習慣
  • ・節度あるメディア利用
  • ・大人との良い人間関係

規則正しい生活習慣の基盤は、十分な睡眠にあります。定刻に就寝・起床し、夜間にたっぷり睡眠をとれる生活リズムを整えてください。

メディア利用は節度を心掛けます。過度な利用は夜更かしの要因となり、睡眠にも悪影響を及ぼします。テレビやスマートフォンを漫然と見続けないよう、気をつけましょう。

親や保育者は、愛着形成に重要な役割を果たします。明るく健全で、愛情にあふれた関わりが大切です。

4-2.実行機能を身につけやすい方法でトレーニングする

実行機能トレーニングは、一人ひとりにあう方法で行います。対象者の様子を観察し、どのような手法なら対象者の困難を解決できるか見極めてください。

<例>

  • 時間管理が苦手な人に
    • ・行動開始時刻を見える化する
    • ・タイマーで残り時間を知らせる
  • ・着替えが苦手な人に
    • ・ボタンタイプの衣服は避ける
    • ・ゆったりした衣服を用意する

タブレットやアプリなど、新しいツールを取り入れるのもおすすめです。

トレーニングの意義を伝えて、目的と重要性を理解した上で、根気良く訓練を続けましょう。

5.実行機能の5要素に対応したトレーニング・アプリ紹介

実行機能の5要素に対応したトレーニング・アプリ紹介実行機能の5要素(抑制、転換、感情コントロール、ワーキングメモリ、計画/組織化)に対応した、トレーニングやアプリを具体的に紹介します。

実行トレーニングのやり方を解説した本も出版されています。書店の「特別支援教育」「こころの悩み」などのコーナーで見つけられます。

5-1.抑制に関するトレーニング・アプリ

実行機能のうち「抑制」には、優先順位を考えるトレーニングがおすすめです。

「やりたいこと」「やるべきこと」を見極め、場面最適な行動を選択できるように目指します。

例:やるべきこと・見過ごすことを見極めるトレーニング

  1. 対象者の日常に即した場面をいくつか用意する
  2. 場面ごとに「やりたいこと」「やるべきこと」を盛り込む
  3. 優先順位とその理由を一緒に考える

場面に盛り込む内容は、ごく日常的なもので構いません。

「帰宅後にゲームの続きをしたい。宿題が出ている。喉が渇いたし、おやつも食べたい。お母さんに『洗濯物を入れておいて』と頼まれていた」という内容です。

優先順位をつけると、やりたいことに割ける時間が思いのほか少ないと気づくでしょう。やりたいことをやるためにどうすれば良いかを考えると、発展的なトレーニングになります。

タスクやToDoを管理できるアプリを活用するのもおすすめです。所要時間とやる順番を考える思考が、自然に身につきます。

5-2.転換に関するトレーニング・アプリ

転換のスキルは、柔軟な発想力を鍛えるトレーニングで伸ばしましょう。

予定通りに物事が進まないシチュエーションを用意します。目指したいのは、思考を転換すれば解決できると理解する状態です。

<例>

  1. 1.予測できない困った場面を用意する
  2. 2.どのように解決すればよいか、一緒に考える

できるだけ起こりうる場面を用意すると、対象者にとって実戦的な学びになります。「料理を始めてから、材料の不足に気づいた」「テスト開始後に、忘れ物に気づいた」など、工夫しましょう。

脳トレやクイズアプリも、発想力や思考の転換を鍛えてくれます。時間を決め、取り入れてみても良いでしょう。

5-3.感情コントロールに関するトレーニング・アプリ

感情コントロールは、マイナス感情をつかいます。

さまざまある感情のなかでも、マイナスな気持ちはコントロールが難しいといわれます。

マイナス感情を制御できるようになれば、自分を抑制する力が伸びると期待できるでしょう。

<例>

  1. 1.マイナスな感情の種類を列挙する
  2. 2.それらの気持ちになったときにできる方法を提案する
  3. 3.実際に試してみて、対象者にあう方法を見つける

マイナス感情は、感じた瞬間から6秒経つと薄らぎ始めるそうです。6秒間だけ制御できれば、気持ちが落ち着く可能性が高まります。

「6秒間、目を閉じて深呼吸する」「6秒間、自分の良いところを思い浮かべる」など、6秒だけ気を紛らわせる方法を考えてみてください。

感情を記録し、心を落ち着ける感情日記アプリも活用できます。

5-4.ワーキングメモリに関するトレーニング・アプリ

ワーキングメモリとは、短時間だけ情報を保持し、行動する力です。

「板書を見て、ノートに書く」「電話を受けながら、メモをとる」など、2つの行動を同時に行うときにも使われます。

ワーキングメモリを養うには時間がかかります。トレーニングの効果を短期的に実感するには、以下の手法を試してみてください。

<例>

  • ・自分にあったメモのとりかたを見つける
  • ・メモに必要な要点を整理する(時間、場所、やること など)
  • ・メモの形状を工夫する(紙、メモアプリ など)
  • ・メモがとれなかったときの対策を考えておく

メモをとる工夫により、忘れたとしても大事には至りません。

アプリ「Lumosity:スーツケースシャッフル」は、音声で聞いた情報を頼りに、宿泊客に正確に荷物を届けるゲームです。

「聞く」「覚える」「行動する」の3つを連携させ、ワーキングメモリを鍛えます。

5-5.計画・組織化に関するトレーニング・アプリ

先を見通し、段取り良く作業を進める実行能力を高めるには、時間感覚と時間の使い方を知るトレーニングをしましょう。

<例>

  1. 1.時間短縮したい行動を書き出す
  2. 2.一つの行動にかかる時間を測る
  3. 3.短縮できる工夫を考える
  4. 4.工夫して行動したときの時間を測る

段取り力を高めるには、アプリがおすすめです。「ヘイ・デイ (Hay Day)」 「ブラウンファーム」などの農場経営ゲームにチャレンジしてみましょう。

「ハロウィンにアップルパイを焼くためには、りんごと小麦粉の収穫が必要。春に植えつけをしなければ」と、先を読む思考が育ちます。

6.【中学生~大人に推奨】衝動の抑制にマインドフルネスを取り入れよう

【中学生~大人に推奨】衝動の抑制にマインドフルネスを取り入れよう中学生以上は、実行機能トレーニングにマインドフルネスをくわえてみてください。大人まで使える、衝動の抑制スキルが伸ばせます。

マインドフルネスとは何か、具体的なやり方も含めて詳しく解説します。

マインドフルネスとは

マインドフルネスは、今、この瞬間に意識を集中させる心理的なアプローチです。

過去の経験や先入観、将来への不安などを取り払います。自分自身の五感と実際にいま起きていることを、あるがままに受け入れましょう。

不安定な気持ちを落ち着け、マインドを前向きに整えます。生産力を上げ、効率的な活動ができるようになるといわれています。

6-1.実行機能トレーニングとの相乗効果

マインドフルネスは、実行機能トレーニングと併用すると相乗効果があります。

研究の結果、ワーキングメモリや注意機能、情動制御、創造性に良い効果をもたらすとわかっています。

(※ 参照:「マインドフルネス・トレーニングは実行機能の何を変えるのか」東京学芸大学・関口貴裕

実行機能トレーニングは、脳の前頭前野の機能を高めます。前頭前野が理性的に働くためには、心が落ち着いている状態であることが大切です。

マインドフルネスで気持ちを穏やかにしてから、実行機能トレーニングを始めましょう。衝動性が抑制され、物事を冷静に捉えやすくなります。

第二次性徴が始まる10代は、性ホルモンの影響で感情を制御する力が低下します。衝動を暴走させないためにも、マインドフルネスが有効です。

6-2.マインドフルネスの実践例

マインドフルネスは、呼吸を大切にします。

楽な姿勢になり、呼吸に意識を向けましょう。何か思考がよぎったら、自覚した上でまた呼吸に意識を戻します。

呼吸を意識の中心に据えると、自然と「いま」に集中できるようになります。

目の前に集中することにもチャレンジしましょう。ながら作業を中止し、目の前のタスクにだけ意識を向けます。

感覚が研ぎ澄まされ、自分の気持ちの動きを落ち着いて感じられるようになります。

7.ひとりでできる力が身につく!実行機能トレーニング効果の高め方

ひとりでできる力が身につく!実行機能トレーニング効果の高め実行機能トレーニングを通じ、ひとりでできる力を伸ばすコツを解説します。

実行機能トレーニングの目的は、対象者の困難を解消と自立に向けた支援です。「できて当たり前」と考えず、課題を克服するまで根気よくかかわっていきましょう。

7-1.ストレスの少ない環境を意識する

実行機能トレーニングを受ける人が、ストレスが少ない環境で過ごせるよう配慮しましょう。

実行機能を司る脳の前頭前野は、脳のなかでもっとも新しく進化した領域であり、ストレスに弱い特徴があります。

ストレスやプレッシャーを受けた前頭前野は、働きが鈍化し理性的な判断をできなくなります。

前頭前野の機能が低下すると登場するのが、進化的に古い領域(視床下部)です。視床下部が優位に立つと、本能的な衝動や欲望がおもむくままの行動が現れます。

実行機能を高めるには、ストレスを減らし前頭前野を守ることが大切です。

7-2.長い目で成長を見守る

実行機能トレーニングの成果が出るまでには、時間がかかります。長い目で見守り、焦らずに続けましょう。

実行機能は、そもそも発達に時間がかかります。人間の実行機能は3歳から5歳ごろに急激に発達し、その後の発達スピードは鈍化します。

認知機能の中でも発達のタイミングがもっとも遅い領域とする研究結果もあります。

(※ 参照:幼児の運動能力と実行機能の関係|北海道教育大学

できているところに注目して自分自身を認め、じっくり関わるように心掛けましょう。

<コラム>

できたことを褒め、自尊感情を高める関わりは、脳の報酬体系が正しく機能してはじめて効果を発揮します。

発達障害がある子どものなかには報酬体系の働きが低下し、報酬(褒め)を待てずに衝動的に行動するタイプがいます。

このタイプは脳の衝動性が、報酬体系を凌駕していると考えられます。

脳機能の問題であり、根本的に直すのは難しいのが現実です。

褒める作戦では動かない子どもには、実行機能トレーニングを通じて実生活の困難が減る実体験を積ませてみてください。

実生活でメリットが感じられれば、前向きに取り組む気持ちが生まれることを期待できるでしょう。

8.まとめ

まとめ実行機能は、私たちの生活のあらゆる課題達成に必要なスキルです。感情をコントロールする力や抑制する力、計画的に物事を進める力など、さまざまな要素があります。

実行機能に課題があると、周りの人が当たり前にできる作業ができず、自信を喪失してしまうでしょう。 適切な環境とトレーニングメニューを用意し、困難を減らす訓練をしていきましょう。

発達障害がある人は、同時に実行機能にも課題を抱えるケースが少なくありません。発達障害の特性を踏まえ、できることを一つずつ増やしていきましょう。

時間をかけ、じっくり関わる姿勢が大切です。