発達障害は起業に向いているか|ウワサの検証と多様な働き方・職場の紹介
公開日: カテゴリー: SST
発達障害と起業には、相反する2つのウワサがあります。
「発達障害には起業が向いているから、起業するべき」と、「発達障害の起業は失敗しやすいから、やめておくべき」です。
どちらが正しいのでしょうか。
今回は職場の働きづらさ解消のために起業を検討している人に向けて、ウワサの真相を解説します。
本当に自分にあう働き方を見つける方法もまとめました。起業だけが発達障害が活躍できる唯一の道ではありません。
発達障害の特性を踏まえつつ、働き方を柔軟に探すヒントにしてください。
1.発達障害が職場で困りやすいこと
発達障害がある人は、職場で多くの困りごとに直面します。
発達障害のタイプ | 困りごとの例 |
---|---|
ASD(自閉スペクトラム症) |
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ADHD(注意欠如・多動症 |
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LD(学習障害) |
|
周りの人が当たり前にこなす作業ができず、自信を喪失して働けなくなる人もいます。転職しても同じ課題に直面し、安定雇用が困難なケースも見られます。
2.「発達障害は起業が向いている」といわれる理由
「発達障害者は稀有な才能を持っている」「だから発達障害者こそ起業したほうが良い」という言説があります。
発達障害の資質や起業家の個性が新たなビジネスを切り拓き、成功した例が目立つからでしょう。
◎ 発達障害がある著名な起業家
- ・スティーブ・ジョブズ(Apple)
- ・ビル・ゲイツ(Microsoft)
- ・イーロン・マスク(Tesla)
- ・イングヴァル・カンプラード(IKEA)
日本では、プログラミングスクール「TECH CAMP」代表であるマコなり社長こと、真子就有氏もADHDの傾向を持っていると公開しています。
「起業した人の3割は発達障害(ADHD)だった」と示すアメリカの調査結果も、ウワサの信憑性を高めているようです。
成功した起業家は、ただでさえ目立ちます。その人が強烈なキャラクターと能力の凹凸を併せ持っていれば、さらに人々の耳目を集めるでしょう。
ここから、発達障害者は経営に向くとの結論が導かれたのかもしれません。
3.「発達障害が起業しても失敗する」といわれる理由
「発達障害は起業してもうまくいかない」という言説の根拠は、現実的です。
起業すると、責任を持つ業務が全方位的になります。経営者の仕事は、発達障害が苦手とする能力を必要とされる場面多々あります。
採用・人材育成にはコミュニケーション力が、経営状況の管理は先を見通す力が必要です。苦手な業務を担う人を雇っても良いでしょう。
しかしスタッフが自分の思い通りに動くようにするために、人間関係の構築と育成が欠かせません。
従業員なら「つぎは気をつけます」で許されるミスも、経営者がやると信頼の失墜や取引先の消失などの致命傷になりかねないでしょう。
発達障害の起業では、苦手な能力を高いレベルで要求される場面に多く直面することが、失敗しやすいといわれる理由です。
4.「発達障害は起業で成功できる」ではなく、発達障害の起業家が目立つだけ
発達障害のある人の全員が、起業に向いているわけではありません。
起業が成功した人が発達障害者だった事例や、発達障害の特性を活かして起業に成功した人が多かったと考えるのが自然かもしれません。
起業すると能力の凹凸にかかわらず、やらなければならない仕事が増えます。苦手分野の仕事に苦労を感じる場面も増えるでしょう。
「会社で雇用される働き方があわないから」と起業した結果、かえって困難が増える可能性もあります。
起業は、働き方のあらゆる悩みを解決する万能薬ではありません。起業を一つの選択肢としつつ、多様な働き方のなかから自分にあったものを探しましょう。
5.起業に向いている発達障害のタイプ
発達障害があり、さらに起業に向いているタイプを3つ解説します。
起業志望の人は、当てはまる項目があるかチェックしてみてください。
5-1.自分の特性を客観的に把握している
自分の特性を客観的に把握することは、起業を成功させる第一の鉄則です。
発達障害は、人によって特性や能力の凹凸の程度が異なります。同じ症名でも、顕出する特性は多様です。
「ASDはコミュニケーションが苦手」「ADHDは自己管理が苦手でうっかりミスが多い」といわれるのも、一つの傾向に過ぎません。
事業の責任を担うには特性の正しい把握と、致命的なミスを防ぐ対策が大切です。
5-2.熱量を持って語れる「やりたいこと」がある
起業して事業を軌道に乗せるには、強いエネルギーが必要です。
「これをやりたい」と熱量を注げる思いがある人は、起業に向いているでしょう。
発達障害の特性のうち、つぎの3つは起業のエネルギー源となります。
- ・過集中
- ・こだわりの強さ
- ・衝動性
過集中は、スタートアップ時のがむしゃらに突き進む時期にパワーを発揮します。こだわりの強さは製品やサービスのクオリティ向上に役立つでしょう。
衝動性は、ライバルよりも先んじてビジネスアイデアを具現化するスピード感につながります。
5-3.周りの人の意見を取り入れられる
周りの人の意見を受け入れ、サポートを受けられる人の起業は、うまくいく可能性が高いでしょう。
法的には自分一人で起業できるとはいえ、実務を一人でこなすのは現実的ではありません。まして苦手分野が顕著にあらわれる発達障害の人は、スタッフとの業務分担が重要です。
起業家仲間と交流し、事業がうまく行く方法や新しいビジネスアイデアを提供してくれる人もあらわれます。
自分に利がある意見に耳を取り入れると、起業で成功する確率が高まります。
6.発達障害による起業の成功例
発達障害の特性を活かし、起業に成功した例を4つ、紹介します。
◎ フリーコンサルタントのA氏
周囲の目を過剰に気にするADHDです。
周囲と揉めない術を身につけ愛されキャラになり、顧客からの紹介で契約が引きも切らないようになりました。
◎ コーヒー豆販売業のB
人や音があふれる、ざわついた環境が苦手なASDです。
焙煎から袋詰めまで一人で完結できる形態での起業なら、落ち着いて働けると思い至り起業しました。
◎ 児童発達支援・放課後デイサービス施設を開業したC氏
ADHDと不登校に悩んでいましたが、独自の学習法で早慶に合格します。
同じように生きづらさを抱える子どもたちに、成功法を届けたいと起業しました。
◎ プログラミングスクール運営のD氏
衝動性と過集中があるADHDです。
D氏が持つ自動化やデザインスキルに感心した人が出資申し出、プログラミングスクールを開校しました。
(※ 参照:「発達障害とアントレプレナーシップ」)
7.発達障害による起業の失敗例
発達障害の特性を把握していないために起きた、起業の失敗例を紹介します。特性の正確な把握が大切だと気づかせてくれる事例です。
7-1.マルチタスクが苦手なのに起業して失敗
会社員に欠かせないマルチタスクが苦手で、起業によりマルチタスクを回避しようとした例です。
Webデザイナーとして起業したあとに、個人事業は会社員以上のマルチタスクが必要だとわかりました。結果、事業をたたみアルバイト生活になりました。
7-2.スケジュール管理が苦手なのに起業して失敗
予定やタスクの進行管理が苦手で、上司からの叱責から逃れるように起業した例です。
独立し、社員を雇いましたが、社員とクライアントの同時管理に苦労します。結果、会社を畳み個人事業主になってほそぼそ続ける形態に落ち着きました。
8.発達障害者が起業すると受けられる支援
発達障害者の起業を支援する制度を、5つ紹介します。
資金やサポートが必要な起業時に、ぜひ活用したい制度です。
8-1.個人事業税減免制度
個人事業税は、都道府県が徴収する個人事業主対象の税金です。事業にあたって利用する行政サービス経費の一部を負担するとの名目です。
障害がある納税者は、申請により個人事業税の減免を受けられます。
減免額は、障害者一人あたり上限5,000円です。
減免対象者や認定基準は、都道府県が定めます。最寄りの自治体窓口にお問い合わせください。
8-2.創業時に利用できる補助金・助成金
創業を支援する補助金・助成金を用意している自治体があります。
支援内容は都道府県によって異なります。以下は東京都の「創業助成事業」の内容です。
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(※ 参照:創業助成金|東京都中小企業振興公社)
8-3.日本政策金融公庫「創業支援」
日本政策金融公庫は、創業前・創業時・創業後の3つのフェーズにあわせた支援を提供します。
融資や財務、税務のプロに無料で相談できます。
<創業前の支援内容>
- ・創業計画の立てかた
- ・融資の申し込みかた
- ・創業情報のメールマガジン
<創業時の支援内容>
- ・創業資金の融資
- ・創業計画書の立て方
<創業後の支援内容>
- ・経営に役立つ情報の配信
- ・販路開拓に役立つマッチング
(※ 参照:新たに事業を始めるみなさまへ創業支援|日本政策金融公庫)
8-4.中小企業庁「創業・ベンチャー支援」
中小企業庁は、創業と事業活動の円滑な進行を資金面と情報面で支援しています。
小冊子「夢を実現する創業」は、創業の仕方から創業後に待ち受ける課題の乗り越えかたまで解説しています。
公的機関を中心とした相談窓口では、受けられる支援を具体的に把握できます。投資家や経営パートナーと事業主が出会える「ベンチャープラザ」も開催されています。
(※ 参照:中小企業庁:経営サポート「創業・ベンチャー支援)
8-5.地方自治体独自の支援金・補助金
地方自治体が、独自に起業・創業支援を行っている場合もあります。
市町村単位で申し込め、競争率は低く、採択されやすい点がメリットです。
空き店舗を利用しての起業や事業継承に対する補助金、移住促進の補助金などもあります。
詳しくは創業者向け補助金・給付金(都道府県別)でご確認ください。
9.起業以外に発達障害が働きやすい職場・仕事
起業以外に、発達障害の人が働きやすい職場もあります。具体的に4つ、紹介します。
いまの職場に働きづらさを感じている人にとって、自分にあう職場探しのヒントになるでしょう。
9-1.ベンチャー企業・スタートアップ企業
ベンチャー企業は、既存ビジネスモデルにイノベーションを加え新しいサービスを提供する起業です。
スタートアップ企業は、これまでにない革新性のあるサービスを提供します。どちらも創業直後から数年の企業を指し、どこも事業の確立と拡大に大忙しです。
人材の細かなことは気にしない、能力の凹凸はあって当たり前と考える土壌があります。できる分野の仕事で成果を出せば評価される傾向が強く、発達障害の人も働きやすいでしょう。
9-2.大手企業
大手企業は、仕事の分業が進んでいます。部門ごとに担当業務が明確で、担当外の仕事までこなす必要はありません。
苦手な業務を避けた人員配置も期待できるでしょう。
障害者を含めた多様な人材の活用(ダイバーシティ)に対する理解も進んでいます。
リモートワークや短時間勤務など、働きやすい環境が整備されていることも大企業ならではのメリットです。
9-3.障害者雇用枠での採用
障害者雇用枠とは、障害者を対象とした採用枠です。国が、障害者雇用政策の一環として推進しています。
発達障害の人も、障害者手帳を持っていれば障害者雇用枠に応募できます。
障害者雇用枠での採用は、以下のメリットがあります。
- ・合理的配慮を求められる
- ・就職のチャンスが広がる
- ・特性を踏まえた業務を担当できる
障害者雇用枠は、従業員を43.5人以上雇用している事業主に義務付けられています(障害者雇用率制度)。
発達障害者が就職口を探す際は、従業員数43.5人以上の企業を候補にしても良いでしょう。
9-4.フリーランス・個人事業主
自分のペースで働きたい人は、フリーランスや個人事業主をおすすめします。
起業との違いは、自ら事業をおこさなくても始められる点です。仕事を発注したい企業・団体から案件を受け、対価を収入とする人も大勢います。
フリーランスや個人事業主は、自分で仕事を選べる点がメリットです。苦手を避け、得意分野に特化した案件に絞って受注しても構いません。
在宅で働き、クライアントとのやりとりをWebに集約すれば、対面コミュニケーションが苦手な人でも稼働できます。
ただしスケジュール管理や税金関連も、自分でやらなければなりません。マルチタスクにならざるを得ない点は、押さえておいてください。
10.起業準備の参考にしたいコンテンツ
「自分は起業すべきだろうか」と迷ったら、起業にまつわるリアルな声を聞いてみませんか。
起業は大きな決断です。
多くの人の体験談や情報を収集し、冷静に考えてから決めても遅くありません。
10-1.起業家のリアルな声が聞けるトークイベント
企業や自治体が主催する、トークイベントを探してみましょう。
「起業」をキーワードに探すと、先に起業した先輩のリアルな声が聞けるイベントが見つかります。
過去、IT系で起業した人を集める会や、U・Iターンを経て起業した人のパネルディスカッションなどが開催されました。
会終盤の質問コーナーでは、自分の疑問をぶつけることもできます。
10-2.起業した発達障害者の書籍
起業した発達障害者が書いた書籍も、チェックしてみましょう。
『発達障害でIT社長の僕』(幻冬舎)は、発達障害グレーゾーンの筆者の自伝です。生きづらさから発達障害児支援施設向け運営管理システムを開発し、業界トップシェアを獲得するまでの苦労が綴られています。
障害は考え方を変えれば才能になり、人生を変えるきっかけになると筆者はまとめます。
発達障害がありつつ起業するとは、どのようなことか知りたい人におすすめです。
発達障害者向けの転職サイト・セミナー
マイナビ パートナーズ紹介は、障害者雇用に特化した就職・転職サイトです。マイナビ自身が障害者を雇用しており、ノウハウを活かしたサポートが受けられます。
ジョブレインボーはダイバーシティ採用がテーマの就職・転職サイトです。大手企業や有名外資系企業、地方の優良な中小企業まで400社のダイバーシティ採用に応募できます。
インターンシップやイベント情報も掲載されています。
11.発達障害の特性を踏まえ最適な働き方を探そう
発達障害者は起業に向く人もいれば、雇用が適した人もいます。
起業は、現在の働きづらさを解決してくれる魔法の方法ではありません。
起業するとするべき業務と責任が増えます。それを踏まえた上で、それでもやりたいことがある人は、起業に挑戦しましょう。
働きづらさは、勤務先を変えれば軽減できる可能性があります。発達障害の雇用に積極的な企業や特性を理解してくれる企業を探してみてください。