発達障害者は得意なことがないといけないのか|自立できる考え方・働き方
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発達障害に向けた生き方のアドバイスでは「得意なことを活かそう」との記述が、よく見られます。
発達障害は、誰もが得意なことを持っている前提に立った書き方だと感じませんか。
「うちの子、得意なことはないが大丈夫だろうか」「人より秀でた才能がなければ、発達障害は生きられないのか」と不安を感じるのも当然です。
今回は発達障害を持つ人が入りやすい、得意なこと探しの迷宮に焦点を当てました。発達障害だが得意なことがない場合の打開策や、得意がなくても自分に合う働き方が見つかる考え方を解説します。
「得意なことがなくて心配」「将来の自立が不安」と悩む発達障害者やその親御さんは、ぜひ最後までお読みください。
1.発達障害を取り巻く環境
発達障害の概念は1960年代にアメリカで誕生し、日本には1970年代に入ってきました。
2005年に「発達障害者支援法」が施行され、発達障害に対する人々の理解が深まりつつあります。
学校教育でも特別支援学級に在籍・通級する子どもの数は、右肩上がりに増加中です。
特別なサポートが必要な子どもたちが顕在化し、受け入れる環境整備が進んでいることを意味します。
(※ 参照:特別支援教育行政の現状及び令和3年度事業について|文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 )
発達障害が広く知られるようになったとはいえ、すべての人が発達障害を正しく理解しているとは限りません。
発達障害に対する思い込みや決めつけから、不用意な発言をする人もいます。いまだに、発達障害は根性論・精神論で解決できると信じる人もいます。
個人の成功体験を一般化し、吹聴しようとするSNS投稿も後を絶ちません。
現代は発達障害の認知・理解が広がり、サポート環境が整う反面、発達障害者を含む誰もが本当に生きやすい社会実現への過渡期にあると考えられます。
2.発達障害者が得意を探してしまう理由
自分らしい生き方を模索するとき、発達障害者が得意を躍起に探してしまいやすいのはなぜでしょうか。
発達障害者が置かれた環境や不安を踏まえ、3つの理由を解説します。
2-1.発達障害に向けられる「得意を見つけよう」という言葉
必死に得意を探す理由は、発達障害者に向けた「得意を見つけよう」とのアドバイスにあるかもしれません。
一見、もっともに見えるこの言葉が、あなたを苦しめている可能性があります。
社会に適応するヒントを探すとき、繰り返し「得意を見つけよう」と語られるとどうでしょうか。
「発達障害は得意がないといけない」「得意を見つけて活かすしか道がない」「やはり得意を探さなければならない」、そういった気がしてきませんか。
2-2.「発達障害=特異な才能がある」という誤解
発達障害者は特異な才能を持っているとの誤解も、世の中にはあるようです。
発達障害の特性が、ギフテッド(Gifted・先天的に突出した才能を持っている人)と似ていることが誤解の要因です。
世間から理解されにくい言動が多い点でも、発達障害とギフテッドは似ています。
ところが、発達障害とギフテッドは別物です。発達障害は医療的な診断概念で、ギフテッドに明確な定義はありません。
際立つ才能を持つ発達障害もいれば、人並みの才能でゆっくり生きるのがあっている発達障害もいます。
本来は別物の2つを混同すると「発達障害=特異な才能の持ち主」との誤解につながりかねません。
誤解が生まれた結果、得意なことを見つければ稀有な才能も見つかるはずだと血眼になって探したくなります。
2-3.将来の自立に対する不安
将来の自立と安定に対する不安を解決する手段として、得意なことを探し続ける人もいます。
将来の自立は、発達障害の当事者や親の大きな心配ごとです。
発達障害があると「適職に就いて安定した収入を得られるのか」「生活を営んでいけるのか」などの不安と無縁ではいられません。
「得意なことを活かして自立できれば、生活の心配はなくなる」「得意なことを活かした道に進むことが、発達障害者にとっての幸せ」と考えるのも、自然な流れでしょう。
しかし、この思いが過ぎると「得意なことがなければ自立できない・適職が見つからない」との心配に陥り、盲目的に得意を探す行動に走ってしまいます。
★あなたが探す「得意なこと」が何かを定義しよう
発達障害を持ちながら、社会的に大成功をおさめた人もいます。
映画監督のスティーブン・スピルバーグや俳優のトム・クルーズはLD(学習障害)、Microsoft創業者のビル・ゲイツはASD(自閉スペクトラム症)です。
成功した発達障害者を見ていると、発達障害者の誰もが不世出な才能を持つ気がしてきます。
「彼らに匹敵する才能を持っていれば、一生困らずに食べていける」との期待も、思い込みを助長する一因です。
しかし、あなたが探しているのはビル・ゲイツレベルの能力でしょうか。自立に十分なスキルがあれば良いのではありませんか。
もっと肩の力を抜き、等身大の得意を探してみてください。きっと、今より毎日が楽になるはずです。
3.「発達障害なのに得意なことがない」という悩みの打開策
「自分は発達障害だが、取り立てて得意なことはない」と悩む人に、悩みを打開するヒントを紹介します。
発達障害者の全員が、自分の得意分野を明確に自覚できているわけではありません。「得意なことがない」「才能がない」と悩みながら、生活を送っている人も大勢います。
悩みながら日々を過ごすのは辛いと感じる人に向けて、4つのヒントを解説します。
3-1.なぜ得意を探しているのか冷静に考えよう
得意探しに疲れたら、得意なことを躍起になって見つけようとしている理由を振り返ってみましょう。先の章で紹介した3つの理由も、ヒントにしてみてください。
得意なことは、苦なく楽しみながらできるものです。悩み苦しみながら見つけるものではありません。
得意なこと探しが辛くなったら、一度冷静になって問題の本質を考えましょう。冷静かつ客観的に考えるコツは、以下です。
<冷静・客観的に考える3つのコツ>
- ・静かで集中できる環境を用意する
- ・思いはひたすら書き出す
- ・事実と解釈(思い込み)を分ける
たとえば「発達障害の人は得意なことがあるはず。得意なことを活かすと、自立しやすくなる。その結果、生活の心配はなくなる。自分には得意がないから自立が難しい」と書いたとします。
<冷静・客観的に考える例>
- ・発達障害の人は得意なことがあるはず→解釈
- ・得意なことを活かすと、自立しやすくなる→事実(自立できる可能性が上がるかもしれません)
- ・生活の心配はなくなる→事実(生活の心配を軽減できます)
- ・自分には得意がないから自立が難しい→解釈
事実と解釈に分けることで、自立することへの心配や不安で、得意を必死に見つけようとしていることに気づけます。
3-2.「得意」の基準を上げ過ぎていないか考えよう
探している得意なことのレベルが高過ぎないか、考えてみてください。
あまりに高過ぎる基準で、得意なことを見つけようとすると、本来持っている良い個性を得意と認められずに見失うかもしれません。
反対に基準を緩めたため、当たり前だと思っていた資質が得意なことだったと気づける人もいるでしょう。
ビル・ゲイツ並みの得意なことを持っていなくても、社会的自立は十分叶います。クラスや会社で一番でなくても、重宝される才能はたくさんあります。
「ナンバーワン/オンリーワンでなければ得意と認められない」と基準を上げ過ぎると、どれだけ探しても得意なことは見つからないでしょう。
3-3.得意ではなく「やりたい」「楽しい」に目を向けよう
周りより秀でる得意を探すより、やりたいと思えること・やっていて楽しいことを積極的に探しましょう。
得意なことは、往々にして「やっていて苦にならない」「ずっと続けられる」場合が多いものです。まさに「好きこそ物の上手なれ」のことわざ通りです。
好きなこと・やりたいことは、周りが止めてもやり続けます。結果、スキルが伸び得意と胸を張って言えるようになります。
周りと比べて秀でている部分より、好きなことや楽しいことのほうが見つけやすいのではありませんか。試しに、日々を振り返り探し出してみましょう。
3-4.絶対に避けたい苦手も書き出そう
得意も、好きなこと・楽しいことも思いつかない場合は、苦手分野に視点を転じます。苦手なことを列挙し、それらを避ける生き方がないか模索しましょう。
「ひろゆき」の名前で有名な実業家・論客の西村博之氏は、ストレスフリーな生き方を提唱しています。
氏が語るストレスから解放された生き方のコツは「面倒なことは避けて、自分にとって楽な道を探す」です。
苦手を避けていくと、結果的に「苦労なくできること」が残ります。残った要素のうち、興味を少しでも強く持てるものを追求してみてください。
いつか、得意に昇華する日がやってきます。
4.得意ではなく特性にあわせて働き方を選択する
発達障害のタイプ別に、おすすめの働き方を紹介します。
得意なことがない・見つからないままでは、仕事探しがままなりません。
得意なことではなく特性にあわせた働き方を探すと、居心地の良い働き方が見つかりやすくなるでしょう。
4-1.ASDにあった働き方
以下は、ASD(自閉スペクトラム症)によく見られる特性です。
- ・コミュニケーションが苦手
- ・相手の考えや気持ちの察知が苦手
- ・特定のものに強いこだわりがある
- ・決まった手順の繰り返しにこだわる
それぞれの特性にあう働き方を考えてみましょう。
コミュニケーションや対面しての意思疎通に苦手意識を持つ人は、人と会わずに完結できる働き方が向いています。
メンバーとのやり取りがチャットで完了するリモートワークが適しています。一人で没入できるプログラミングやデータ処理の仕事はいかがでしょうか。
物事や手順に強くこだわるタイプなら、作業手順が決まっているルーティンワークがおすすめです。経理や調達の仕事、工場のラインスタッフ、清掃スタッフなどが該当します。
4-2.ADHDにあった働き方
一般的なADHDの特性は、以下のとおりです。
- ■不注意
- ・一定時間、集中を維持し続けられない
- ・気が散りやすい
- ・ミスや忘れ物・紛失が多い
- ■多動・衝動性
- ・じっとしていられない
- ・いるべき場所から離れてしまう
- ・突発的な言葉や行動が多い
ADHDの特性には、結果を出しさえすればプロセスは問われない働き方が向いています。仕事の進め方や進捗を逐一管理される働き方は、向いていません。
インセンティブ制の営業職はいかがでしょうか。結果を重視し、途中のミスや失敗は多めにみてくれる会社に出会えれば、特性を活かして活躍できるでしょう。
外的刺激の影響を受けやすいタイプにあうのは、日々環境が変わる働き方です。フォトグラファーやデザイナーなど、クリエイティブな仕事を模索しましょう。
4-3.LDにあった働き方
LD(学習障害)は、「聞く/話す/読む/書く/計算・推論する」のいずれかに際立つ苦手を持ちます。苦手は一つだけの場合もあれば、複数を併発する人もいます。
ほかの発達障害と異なり、苦手分野がはっきりとしています。苦手なことを避けやすく、補助ツールの活用で克服できる場合もあります。
<LDの特性にあわせた働き方の例>
・「聞く・話す」が苦手→ やりとりを文字で進められる在宅ワーク
・「読む」が苦手 → 口頭のやり取りがメインとなる接客業/読み上げツールの利用
・「書く」が苦手 → 手書きの文字をほぼ使わないIT関連職
4-4.注意!特性は個人によって異なる
同じ発達障害の症状名でも、特性のあらわれかたは一人ひとり異なります。
顕著なのはASDです。ASDは、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害と区別されていた症状をまとめた名称です。
おしゃべりが得意なASDもいれば、人と目を合わせられないASDもいるほど、極端な特性を内包します。
ADHDも対極にある不注意・散漫と過集中の特性を含みます。
各種サイトや書籍で紹介されている症状名ごとの特性は、代表的なものだと認識してください。
「ASDだから人と対面しない仕事が向いている」「ADHDだから外向的な仕事に就かなければならない」と決めつけないことが大切です。特性を理解し、特性にあう働き方を探す手順を踏みましょう。
5.進学先も得意より特性を踏まえて選択する
発達障害を持つお子さんが、中学校卒業以降に選択できる進学先を紹介します。
公立学校の場合、小学校と中学校は同じ教育委員会が管轄します。小中の連携や情報共有も円滑で、きめ細やかなサポートを受けやすいのが特徴です。
中学卒業以降は、学校を管轄する機関が変わります。進学先によって得られる支援が異なるため、事前の情報収集と選択が重要になります。
5-1.中学卒業後の進学先
中学校卒業後に選択できる進学先と、向いているタイプを表にまとめました。
どの進学先も一長一短があります。学校見学や相談室の利用を通じ、少しでもあう進学先を選択しましょう。
進学先 |
特徴 |
向いているタイプ |
全日制高校 |
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定時制高校 |
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通信制高校 |
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特別支援学校高等部 |
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高等専門学校(高専) |
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5-2.高校卒業後の進学先
高校卒業後に選択できる進学先と、向いているタイプを下表にまとめました。
高校を卒業すると、年齢的には大人の仲間入りです。先にある独り立ちを見据え、最適な進学先を選びましょう。
進学先 | 特徴 | 向いているタイプ |
四年制大学 |
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短期大学 |
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専門学校 |
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通信制大学 |
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海外大学進学 |
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5-3.進学先でも特性にあわせたサポートを
進学ステージが進むにつれ、自分のことは自分でできるようにしていく必要があります。困りごとは子どもが自分で相談し、解決しなければなりません。
進学先にかかわらず、本人の特性にあったサポート環境を整えておきましょう。
進学先で利用できるサポートには、以下の例があります。
- ・合理的配慮を学校に依頼する
- ・スクールカウンセラーと情報を共有する
- ・学生相談室を利用する
- ・かかりつけ医を見つけておく
- ・頼れる公的支援をまとめておく
<用語解説>
合理的配慮とは:障害を持つ人が健常者同様に生活できるように行う配慮です。
◎ 発達障害に対する合理的配慮の例
- ・集中しやすい座席位置を指定する
- ・補助ツールの使用を許可する
- ・試験を別室で受けられるようにする など
6.得意なことは苦手な分野以外を追求して見つけよう
自分の特性や資質をビーズだと考えてみましょう。
得意なことの発見は、無数に散らばるビーズの山からたった1粒を見つけ出すようなものです。一発で見つけるのは、よほど人生経験が豊富でないと難しいでしょう。
ではどうすれば良いか。
数多くの発達障害者を支援してきたRYD編集部は「苦手を避ける」アプローチをおすすめします。
山積みのビーズから、苦手なものを取り除くさまを想像してください。一つ、またひとつとビーズが減っていきます。最終的に、興味があるものや好きと思えるものが残ります。
その興味があること・好きなことを、追究してみてください。「これじゃない」と感じたら、選び直しましょう。選択と研磨を繰り返すうちに、きっと得意なことに伸びていきます。
あなたが見つける得意なことは、ビル・ゲイツのような希代の才能でなくても良いことを忘れないでください。
得意なことを見つけ、自分が心地よく生きられる生き方と場所を見つけられれば、十分幸せに生きていけます。